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空気の日記

松田朋春

  • 4月1日(水)

    玄関先の
    古紙回収のトイレットペーパーが盗まれた
    志村けんが亡くなって三日目
    追悼番組を見て笑った
    これからどうなるのだろう
    都立高校の新学期はもう一ヶ月伸びるそうだ
    学校に行かない子供たちは着替えもしない
    加害者になるなという声が大きくなり
    都知事は夜の酒場に行くなといい
    カラオケとライブハウスに行くなという
    当事者には処刑の宣告に聞こえるのではないか

    新型コロナウイルスの致死率は2~3%とされていて
    これは騒ぎがはじまった当初と変わらない
    変異したのは我々で
    遠くの2~3%と
    すぐそばの2~3%では
    こんなにも違うのだ

    ことしの桜は早々と咲き
    ふしぎと散ろうとしない

    全世帯にマスクを2枚ずつ配ると
    マスク姿の首相が発表した

    東京・世田谷
  • 4月19日(日)

    天気が良いので
    犬の墓参りに出かけたが
    墓地も自粛要請だという

    スーパーから帰ってくると着替えをするようになった
    多摩川の土手も人が多すぎると感じる

    ずっと家族と一緒にいる
    うちとけている
    階段をのぼる音で誰だか分かる
    みたいな会話

    猫は自由にでかけてゆく

    どうせみんなが感染しなくちゃ終わらないんだから
    さっさと済ませたほうがいい
    致死率はインフルエンザ並み
    高齢者を隔離して
    仮設病院をどんどん作って
    キャパシティを確保して
    普段の仕事に戻ろう
    みんなで医療ボランティアをやろう
    そうでないと
    社会が痛んで死ぬ人が増えるよ
    人の行き来が断たれれば
    世界中を疑心暗鬼が覆うようになるよ
    と言いたいが
    言えない

    世の中が急速に回復するイメージと
    停滞が続き分断が定着するイメージが
    交互にやってくる

    東京・世田谷
  • 5月17日(日)

    スーパーもガーデニングショップも
    ほんとうに大勢のにぎわいで
    大気は理想的にここちよく
    何かの間違いではないかと思うくらい
    すべては健康的だ

    高一の娘に
    夏服が届いた
    まだ入学の制服も着ていないのに
    長男は毎日のように
    自転車で遠乗りに出かけていく
    巣篭もりが平気な次男は
    もうすぐ学校がはじまるといって
    ため息をつく

    家族は
    猫ばかりなでている

    ニューノーマルという言葉は
    古くも新しくも感じる
    名刺の束に
    つよい違和感がある

    東京・世田谷
  • 6月9日(火)

    赤い都庁は問題がウイルスから人間側に移ったことの警報で
    これから大きくなる綻びを予兆しているのだろう
    だれにも解除できないこの状態は災禍というより
    百年に一度巡ってくる不思議な季節のようだ

    蚊は刺し
    装いは軽くなっても
    日に焼けた子はいない
    マスクは街にあふれている
    みんな機械としか話してないのに

    東京・世田谷
  • 6月27日(土)

    このところ東京では50人くらいがアベレージで
    ウイルスが社会に定着していくようすが
    想像できるようになってきた
    真夏日に少し動くとマスクが息苦しい
    許容は様々なことがらを
    天秤にかけながら形成されていく

    イベントで詩の書店をやって
    何ヶ月かぶりに知らない人たちと接して
    目ばかりを見て話しかけた
    鼻も口も皮膚の下の内臓のようだ
    そのような出会い方で
    人を記憶するには
    もう少し時間がかかる

    そう
    マスク越しの会話と
    詩を挟んでの会話の
    類似と違いを思ったのだった
    この声は自分ではないし
    あなたでもないでしょう
    それでも強く伝わっていることはあって
    そのような出会い方で人を
    正しく記憶するには
    もう少し時間がかかる

    東京・港区
  • 7月16日(木)

    流行は波状に押し寄せ
    災禍もあとを絶たないので
    これから都市は衰退して
    村づくりがはじまると考えてみる
    日本を20000の村に分け
    いちからつくりなおす
    神社がいるとして
    宗教を選ばなければいけないからそれは留保して
    仮神社と名付ける
    仮神社の仮神主に
    仮の祝詞をあげてもらい
    仮村長と仮議員が仮の議会で話し合い
    仮条例ができる
    でもそれより先に
    まずは村人が必要で
    お医者さん
    歯医者さん
    農家
    畜産家
    狩猟家
    漁師
    八百屋
    肉屋
    魚屋
    米屋
    陶芸家
    林業
    木工
    大工
    瓦職人
    漆職人
    金工
    旋盤工
    プレス屋
    織り屋
    染め屋
    印刷屋
    紙屋
    折屋
    製本屋
    パン屋
    お菓子屋
    酒屋
    革屋
    鞄屋
    自転車屋
    看板屋
    傘屋
    靴屋
    洋服屋
    着物屋
    草履屋
    下駄屋
    土建屋
    解体屋
    工務店
    石屋
    コンクリート屋
    廃棄物処理業者
    溶接屋
    重機屋
    ガラス屋
    鏡屋
    塗装屋
    家具屋
    楽器屋
    文房具屋
    本屋
    庭師
    整体師
    マッサージ師
    占い師
    税理士
    玩具屋
    ケーキ屋
    オーディオ屋
    額屋
    表装屋
    金物屋
    荒物屋
    乾物屋
    お茶屋
    おでん種屋
    居酒屋
    バー
    喫茶店
    たこ焼き屋
    もんじゃ屋
    お好み焼き屋
    ウェブデザイナー
    酒屋
    蔵元
    醤油屋
    出版社
    地方紙
    記者
    釣り道具屋
    模型屋
    音楽家
    建築家
    デザイナー
    画家
    劇団
    歌手
    ピアノ教室
    バンド
    楽器店
    書道家
    算盤塾
    学習塾
    スポーツ用品店
    ゴルフショップ
    古本屋
    骨董屋
    レコード屋
    花屋
    家電屋
    自動車ディーラー
    スナック
    風俗店
    銀行
    市場
    学校
    警官
    消防士
    旅館
    ホテル
    映画館
    銭湯
    葬儀屋
    掃除屋
    小説家
    写真家
    華道家
    茶道家
    噺家
    ダンサー
    おどりの教室
    詩人
    歌人
    俳人
    みどりのおばさん
    みんなに集まってもらって
    最高の村をつくる
    職人は全部は揃わないから村ごとに特化して分業する
    職業はどこまで間引くことができるのだろう
    筒井康隆の音がひとつずつ消えていく小説を思い出す
    村と村との間は風船のようなクルマが行き来し
    疫病の時は行き来をとざし
    人々はデジタルでやりとりして友人は世界中にいるし
    会社は場所に縛られず繋がって大きな仕事をする
    でも立派なものは段々と不要になって
    美しい村の祭りを訪ねる旅をみんながして
    そこで恋をして住まいが変わったりする
    評判のたつ良い村に良い人が移り住み
    そうでない村は村人がデジタルコンテンツに依存して
    うつろになっていき
    豊さに格差が生じてくる
    必要最小限のインフラとはなんだろう
    お墓の整理も必要な気がする

    送り火に雨粒が飛び込んで具体的な音をたて
    灰の匂いが広がった

    キャンペーンから東京が切除された

    東京・世田谷
  • 8月11日(火)

    遅かった梅雨明けからの猛暑で
    ベランダの温度計が40度を超えて二日目だ
    日向の草木は水をやっても萎れていくほど暑い
    安倍首相の支持率は気温より低くなった
    テレビの画像では覇気がない
    情報だけは入ってくる立場にいるから
    この後に続く難局を見通せるし
    もうやめたくなっただろうな
    むりないなと思う
    海外のコロナのニュースがこのところあまり聞こえてこない
    ワイドショーはいつもの出演者が前日のネットニュースをなぞっている
    どこにいっても大勢の人がいる
    マスクをしているだけでみんな普通にリラックスしている
    ただ何かしようとするとすぐに行き止まりがある
    この暑さだってそうだ
    まっすぐ飛べなくなったシオカラトンボがくるくる回っている
    調子の狂ったものを見つけるとつい自分を仮託してしまう
    世界なんてもともと狂っているのさ
    アニメのセリフを思い出す
    ここにもまた行き止まりがある

    東京・世田谷
  • 8月30日(日)

    うちには猫が一匹いて
    柏市の里親探しNPOからもらってきたから
    名前をカシワというのだけれど
    巣篭もりのあいだに
    もう一匹飼うはなしがでていた
    カシワはすっかり外猫だが
    次の子は今どきだし家猫として育てるという
    その子は自由なカシワを見てどう思うのだろう
    そんなかわいそうなことはできない
    それで話は立ち消えていた
    今日、次も外猫でいいのではないかと言ってみた
    「そうね、どうしたってそうなるよね」
    「ならば、反対する理由はお父さんにはないよ」
    仔猫が来た日の愛らしい衝撃を今から想像する
    カシワがとまどい、やがて愛し
    連れ立って歩くさまを想像する
    二本の長い尻尾が会話をしている
    悪いことも想像してしまう
    仔猫が車に轢かれて
    カシワが嘆くすがた
    聴いたこともないくらいするどく遠くにとどく声で
    泣き続ける
    抱いても石のように重い
    想像を
    たくさんしてきた
    子供達のすばらしい活躍
    おそろしい想像もたくさん
    頭を離れない
    脂汗をかく
    でも、何もなかった
    みんな元気に
    普通に暮らしている
    未来ばかり
    考えてきたのか
    仕事でも暮らしでも
    お盆に墓参りをした
    砂漠のように熱かった
    墓がすきだと思った
    未来は心をひっぱりまわして
    たいしたことは何もないけれど
    墓は確かにあったものだけの
    動かぬ証拠だ
    我が家の墓には
    誰だかよくわからぬ人の骨壺が
    ひとつ入っている
    戦時中の混乱のせいだろう
    それを放り出すわけにはいかない
    何かの縁と思って
    そのままになっている
    確かに誰かが生きて死んだのだ
    「空気の日記」をはじめて
    詩についての考えが変わってきた
    それまでは
    まだ書かれたことのない表現や方法に
    憧れがあった
    毎日受けとる詩と
    順番が回ってくるたびに書く詩を
    考えるうちに
    詩は感情の墓になればいいのではないかと
    思うようになった
    確かに生じた心が
    そこに止まるとしたら
    それでいいのではないか
    「空気の墓地」というタイトルを思いついた
    そうもいかないけれど
    それで素直にほぐれる気持ちもあるのだ

    東京・世田谷
  • 9月21日(月)

    毎年恒例の
    若いアーティストたちが作品を発表するイベントをみた
    密にならないように
    出展作家を絞っていて
    その分クオリティも高い
    今年変わったのは
    見ている自分で
    理屈の作品やデジタルの作品には全然反応できない
    写真には
    被写体の実在を感じる
    知らない素材には
    作家という他者を介した
    実在との出会いを感じる

    写真のなかの
    小さな人
    その
    遠さに
    こころが矢のように向かっていく

    福島の原発がだめになって
    毎日線量を見守った
    だがいつのまにか
    忘れた

    秋の連休は大勢のにぎわい
    そして次の巣篭もりの入り口
    すべてを忘れてきた我々に
    それを許さない
    みえないなにか

    東京・表参道
  • 10月13日(火)

    ややんさ
    みなかに
    むきへの
    かひすさ
    かつつい
    こけおの
    たゆやさ
    むえてら
    たちらい
    にせまら
    むゆよな
    ひたにさ
    ありいち
    ひくんむ
    とになし
    うえあに

    「空気の日記」の更新をするにはログインが必要で、IDとパスワード、そしてbotの侵入を避けるために生成された歪んだ画像の四文字を目視して入力しなければならない。いわば私が人間であることの証明だ。ランダムに現れるひらがな四文字に惹かれるものがあってすべて記録している。

    よこやま
    ちせとけ
    ちそふち
    いかてあ
    きみゆら
    なもよい
    くあかゆ
    つせくき
    やぶしお
    へよせき
    けもせと
    のえけち
    とつしち
    くえうし
    えらへこ
    とせへふ

    無意味な四文字。ときどき意味ある言葉になる。感受性によって感染・発症するウィルスと同じだ。

    かにたの
    つおあせ
    くまかく
    にひます
    りとまひ
    えへかん
    ゆあよに
    なたのそ
    つうひち
    つふあみ
    うけりし
    おおかき
    むあもち
    ひけてへ
    こあらせ
    りこえち

    10月に入って東京から出やすくなって、全国各地の縁のある人を訪ねて歩いている。失った仕事を来年は回復させなければならない。東京五輪は無観客開催だという噂が流れ、自殺者は前年比8%増加し、go toトラベルは祭りのように利用者が殺到している。
    来年はどうだろうね、と聞くと、それはわからないね、ホントわからないね、と、どんな人もいう。この例外のなさはすごい。
    秋は来年を考えはじめる時期で、そのわからなさが急速に具体化してきている。見切りをつける、という言い方が近い。

    いみてつ
    つよへな
    きけくく
    きうあつ
    よへくも
    とむひみ
    こえとし
    もとさへ
    もつりえ
    んちこせ
    そそまら
    としくて
    かくへみ
    やえんよ
    そひらの
    いへかん

    どこまでも続く四文字を眺めている。いつか決定的な言葉が現れるのではないか。決定的と感じる感受性は何か、その時にわかる。

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