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空気の日記

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oblaat

新型コロナウイルスの感染拡大により、街の様子がすっかり変わりました。
多くの人々が、せいぜい悪性のかぜみたいなものだと思っていたのはほんのひと月前で、社会の空気の変化に驚いています。
未曾有の事態なので様々な出来事は記録されていきますが、こういう時こそ、人々の感情の変化の様子をしっかり留めておくべきではないかと思いました。
「空気の日記」は、詩人による輪番制のweb日記です。その日の出来事とその時の感情を簡潔に記していく、いわば「空気の叙事詩」。
2020年4月1日より、1年間のプロジェクトとしてスタートします。

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oblaat(オブラート)は、詩を本の外にひらいていく詩人の集まりです。
http://oblaat.jp/

「空気の日記」執筆者

  • 新井高子
  • 石松佳
  • 覚和歌子
  • 柏木麻里
  • カニエ・ナハ
  • 川口晴美
  • 河野聡子
  • さとう三千魚
  • 白井明大
  • 鈴木一平
  • ジョーダン・A. Y.・スミス
  • 田中庸介
  • 田野倉康一
  • 永方佑樹
  • 藤倉めぐみ
  • 文月悠光
  • 松田朋春
  • 三角みづ紀
  • 峯澤典子
  • 宮尾節子
  • 山田亮太
  • 四元康祐
  • 渡辺玄英

新井高子、石松佳、覚和歌子、柏木麻里、カニエ・ナハ、川口晴美、河野聡子、さとう三千魚、白井明大、鈴木一平、ジョーダン・A. Y.・スミス、田中庸介、田野倉康一、永方佑樹、藤倉めぐみ、文月悠光、松田朋春、三角みづ紀、峯澤典子、宮尾節子、山田亮太、四元康祐、渡辺玄英

  • 10月27日(火)

    明け方、寒くて毛布を被っていると犬のことを思い出す。わたしたちのひかりの犬のことである。祖父が長い散歩に連れて行くと必ずなかむら商店で魚のすり身のてんぷらを買ってもらえるので喜んでいたあの犬は、いつしか大人びた顔つきになったが、春の眩しい庭で草を刈る母の背中を目指していっしんに駆けたり、雪の降る夜は玄関に入れられそこを守り、そのまま糸のように寝たりと、幼く、だが精悍な本能の眸を持っていた。川。あれから何度も四季が巡ったが、犬は輪転しながら駆け巡った。あたたかい。それは今朝のわたしの毛布まで、そしてこれからもずっと続く、とても長い散歩であると思う。

    福岡・博多
    石松佳
  • 10月26日(月)

    ソン・イェジンが出演するドラマや映画はあらかた観つくしてしまったので、もう一度「愛の不時着」を最初から観る。字幕を韓国語に設定する。音と文字の対応はかろうじて覚えたつもりだが、早口だとまだ追えない。セリフの意味は記憶をたどるよりほかないが、まれに聞き覚えのあるフレーズが耳に残る。いま、カムサハムニダって言ったよね。北と南の軍が対峙して銃口を向け合う。そういえば序盤にこんな緊迫したシーンがあったんだったなと思い出す。

    週末に訪れた新大久保の街は、路上も店内も多数の観光客でひしめいていた。大半は10代から20代の女性たちだが、しばしば年長者のグループも見かける。ときおり外国語も聞こえてくる。彼らはやはりみな居住者なのだろうか。大きな通りに面した、チーズタッカルビを提供する店はどこも行列をなしていたから、路地に入ったところのシックな韓国料理屋で昼食をとる。キムチがおいしいと感じたのは初めてだった。この店のキムチが特別においしいというわけではなく、きっと私の味覚が変化したのだろう。知識は人間の嗜好を変える。

    化粧品やアイドルグッズを売る店の店内は、肌のきれいな男女のスターたちの写真で埋め尽くされていた。場違いなそれらの店をくまなく観察すると、いたるところでヒョンビンに出くわした。役作りのために彼は、北朝鮮の方言を2ヶ月半ほど練習したという。ヒョンビンがおすすめするシャンプーセット(ポスター付き)を買うべきかと一瞬だけ迷ったが、思いとどまった。私があともういくらか若く、女性だったならば、きらびやかなこの世界のとりこになるのは必定であると思えた。

    韓国食材を売る店で、じゃがいも麺と調味料、そしてなぜか置いてあった「愛の不時着」下敷きを記念に買って帰った。下敷きなんて買うのは小学1年生のとき以来だ。

    言語のオプションに韓国語を追加し、でたらめにキーボードを叩く。子音と母音、パッチムが組み合わされてその都度ひとつの文字が出現するのが心地よい。だがキーボードと音素の対応がわからないので、狙った文字を出すのは難しい。結局、ソフトウェアキーボードに頼り、私は初めてハングルで文を書く。

    안녕하세요
    사랑해요
    손예진

    東京・調布
    山田亮太
  • 10月25日(日)

    実家の整理

    秋雨前線

    詩集の校正

    合間をぬって

    青空。
    あかりの保育園の運動会。
    だからきょうは近くの小学校に行くのだ

    集合は10時50分、
    コロナ対応だから学年別にさせていただきます
    3歳児5歳児クラスがおわって
    やっと4歳児クラスの運動会。

    まずはかけっこ。最後のどんくさいグループにいれられて
    それでも健闘して彼女は2位であった。

    つぎに大きなカラフルなタープをみんなで音楽に合わせてぱたぱた。
    組体操のような。

    それから大縄跳び。
    父母も参加して《パプリカ》の踊りと玉入れ。

    みんなでダンス。園長の祝辞。
    すぐに解散。

    運動会ではないよ
    みんなであそぼうかい
    だよーーーーーと訂正される。

    一気に
    練習の日々の緊張がほぐれて
    入場門のあたりで
    クラスメイトのりくくんと
    りくくんのお母さんとうちのカカと
    思い切りヘンがおのはずんだ写真をとって

    ふつうの週末のふつうの西荻窪のふつうの
    日本語の風景のなかに
    三々五々
    また溶け込んでいく

    東京・西荻窪
    田中庸介
  • 10月24日(土)

    おなかがいっぱいです。今夜はおでんでした。沖縄は今朝起きたら、半袖に短パンの寝巻きでは、タオルケットも蹴飛ばして寝ていると、寒くって、足下からひっぱって体にかけて朝寝したんですが、気温は二十度ちょっとくらいだったかもしれません、なので昼窓を開けていても吹き抜ける風が寒くて素足のままではスリッパが欲しくなりました。
    つい三日ほど前だったなら、汗だくになりながら食べていたはずです。今夜は熱々のがんもやこんにゃくやごぼ天や卵に味がしみてるのが、泡盛のロックとよく合うわけです。近所の窯元で、叔父が地元のを飲むものだというからいつもそこで買っている、直営店でしか出してないという甕貯蔵の一升瓶の古酒はおいしくて三千円で数週間は楽しめるから、冷やした端からなくなる缶ビールとはコスパが違います。春のステイホーム中にもお世話になりましたが、今夜はお猪口に氷をつまみ入れては注いで空けてつまみ入れては注いで空けて、おでんとしまーはコンボですね、永久機関です。おかげでおなかがいっぱいで、おまけにほろ酔いのいい気分です。
    ふう。じゃがいもがおいしかったな。メークインは煮てもくずれないで汁を吸っては箸でつまんでほろっとこぼれかけるのを上手にほおばればほろほろと口の中でなだれていくから、辛子をね、ちょちょっと付けるでしょ。やわらかい芋の食感とほんのり効いた辛みのからまりが甘いんです。そこへほら、またしまーでしょう。しまーっていうのは泡盛でね、島酒だからしまーといって、さすがにこっちに住むようになってすぐには恥ずかしくて言えませんでした。しまー。気取ってるみたいで。言い慣れたのはここ三年くらいかなあ。しまー。もう、こののびやかな発声とともに飲む幸せのあふれでる語感がいい。銘柄は瑞泉で。叔父がね、地元のを飲むものだというもんだから……て、話がループに入りそうだから、今夜はこのへんにしておこうかな。餅巾着の大きいのをふたつは多かったな。おなかいっぱいです。今夜はおでんでした。しまーとおでん。そういえば桜坂に悦っちゃんておでん屋さんがあったなあ。髙木さんと行ったなあ。内側から鍵かかってて、とんとんてノックすると開けてくれるカウンターだけのおでん飲み屋さんだったなあ。閉まってもう何年にもなるけど、シャッターわきの壁のところにおおごまだらがとまってた。白い大きな翅に黒いまだらの模様の入った、ゆったりと翅を広げて舞う蝶。ああ、もうあのへんの飲み屋をなんべん何軒はしごしたっけなあ。髙木さん。午後の三時に地ビール飲み屋で待ち合わせて、朝の八時までえんえん飲んで話してあちこち歩き回って埠頭の階段に腰かけたりもして空がとっくに明るくなってて通勤の人たちが行ったり来たりする横で缶コーヒー飲みながら花壇の縁に腰掛けて、じゃあそろそろ、てゆいレールの県庁前の駅のところで解散したっけ。それに比べてみたら、今夜はかわいいものです。お猪口でいま三杯飲んだところ。ちゃんと夕飯の食器も洗いました。あとは、まぁだからもう一杯二杯やって、そんなこんなで寝るかなあ。

    沖縄・那覇
    白井明大
  • 10月23日(金)

    ひっきりなしに
    窓が波打つから
    きょうは潜水艦の暮らしだ

    すっかり染まった丘が
    全身を揺らして
    うねって

    舟に乗るわたしは
    まどろみながら
    時間を取り戻さない

    陸にあがるころ
    ようやくはじまる一日もあって
    赤や黄色が触手になる

    頷きもせず
    抗いもせず
    数え続けて

    はげしく降るなかで
    ひとりで 高く
    旋回している鳥

    濡れてもかまわないほど
    言語を持っていない
    その覚悟はない

    北海道・札幌
    三角みづ紀
  • 10月22日(木)

    曇り空の下に
    灰青色の

    西の山はいた

    朝には
    そこにいた

    窓を開けると佇っていた

    いつも
    そこにいる

    いなくなるということはない

    昼前に
    空は

    晴れて

    明るい空が広がっていた
    薄い青空の下に

    西の山は
    青緑色に佇ってた

    曇りのち夕方から雨の
    予報が外れた

    そう
    思ったけど

    いまはもう曇って灰色の雲の下に

    きみは
    いる

    西の山はいる

    自宅療養で
    居間のベッドの上にいる兄に

    昼前に

    河口や
    浜辺や
    金木犀の花の

    写真を

    ラインで送った

    付き添いの姪が
    スマホの写真を開いて兄に見せているのだろう

    “海が綺麗だなぁって言ってるよ”

    そう
    姪が伝えてくれる

    塞がった喉から
    弱い息を吐き

    掠れた声で兄は言ったのだろう

    「GO TO トラベル」の東京発着が許された10月に
    見舞いできてよかった

    兄は山が好きだったから冠雪の頃の焼石岳の天辺の
    白く輝くのを

    憶えているだろう

    目を瞑ると
    白い頂が細く輝くのが見える

    兄にも
    あの白い頂が

    見えているだろう

    静岡・用宗
    さとう三千魚
  • 10月21日(水)

    なにもないひとひほとりにたたずみてとまったままの大観覧車

    コスモスをさがすあなたが未だしらぬ無数の花が宇宙に未だある

    CDは光を音にCDの光がここにあることをなんどもなんども再生させる

    無事です、と告げるかわりのそっけない「謹呈」の文字。無事でよかった

    読み差しの詩集を、洗いかけの食器を、書きかけのメールを、生きていることを

    飛行機の光を星とまちがえてなんどもいちばん星を見つける

    東京・深川
    カニエ・ナハ
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