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空気の日記

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oblaat

新型コロナウイルスの感染拡大により、街の様子がすっかり変わりました。
多くの人々が、せいぜい悪性のかぜみたいなものだと思っていたのはほんのひと月前で、社会の空気の変化に驚いています。
未曾有の事態なので様々な出来事は記録されていきますが、こういう時こそ、人々の感情の変化の様子をしっかり留めておくべきではないかと思いました。
「空気の日記」は、詩人による輪番制のweb日記です。その日の出来事とその時の感情を簡潔に記していく、いわば「空気の叙事詩」。
2020年4月1日より、1年間のプロジェクトとしてスタートします。

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oblaat(オブラート)は、詩を本の外にひらいていく詩人の集まりです。
http://oblaat.jp/

「空気の日記」執筆者

  • 新井高子
  • 石松佳
  • 覚和歌子
  • 柏木麻里
  • カニエ・ナハ
  • 川口晴美
  • 河野聡子
  • さとう三千魚
  • 白井明大
  • 鈴木一平
  • ジョーダン・A. Y.・スミス
  • 田中庸介
  • 田野倉康一
  • 永方佑樹
  • 藤倉めぐみ
  • 文月悠光
  • 松田朋春
  • 三角みづ紀
  • 峯澤典子
  • 宮尾節子
  • 山田亮太
  • 四元康祐
  • 渡辺玄英

新井高子、石松佳、覚和歌子、柏木麻里、カニエ・ナハ、川口晴美、河野聡子、さとう三千魚、白井明大、鈴木一平、ジョーダン・A. Y.・スミス、田中庸介、田野倉康一、永方佑樹、藤倉めぐみ、文月悠光、松田朋春、三角みづ紀、峯澤典子、宮尾節子、山田亮太、四元康祐、渡辺玄英

  • 10月13日(火)

    ややんさ
    みなかに
    むきへの
    かひすさ
    かつつい
    こけおの
    たゆやさ
    むえてら
    たちらい
    にせまら
    むゆよな
    ひたにさ
    ありいち
    ひくんむ
    とになし
    うえあに

    「空気の日記」の更新をするにはログインが必要で、IDとパスワード、そしてbotの侵入を避けるために生成された歪んだ画像の四文字を目視して入力しなければならない。いわば私が人間であることの証明だ。ランダムに現れるひらがな四文字に惹かれるものがあってすべて記録している。

    よこやま
    ちせとけ
    ちそふち
    いかてあ
    きみゆら
    なもよい
    くあかゆ
    つせくき
    やぶしお
    へよせき
    けもせと
    のえけち
    とつしち
    くえうし
    えらへこ
    とせへふ

    無意味な四文字。ときどき意味ある言葉になる。感受性によって感染・発症するウィルスと同じだ。

    かにたの
    つおあせ
    くまかく
    にひます
    りとまひ
    えへかん
    ゆあよに
    なたのそ
    つうひち
    つふあみ
    うけりし
    おおかき
    むあもち
    ひけてへ
    こあらせ
    りこえち

    10月に入って東京から出やすくなって、全国各地の縁のある人を訪ねて歩いている。失った仕事を来年は回復させなければならない。東京五輪は無観客開催だという噂が流れ、自殺者は前年比8%増加し、go toトラベルは祭りのように利用者が殺到している。
    来年はどうだろうね、と聞くと、それはわからないね、ホントわからないね、と、どんな人もいう。この例外のなさはすごい。
    秋は来年を考えはじめる時期で、そのわからなさが急速に具体化してきている。見切りをつける、という言い方が近い。

    いみてつ
    つよへな
    きけくく
    きうあつ
    よへくも
    とむひみ
    こえとし
    もとさへ
    もつりえ
    んちこせ
    そそまら
    としくて
    かくへみ
    やえんよ
    そひらの
    いへかん

    どこまでも続く四文字を眺めている。いつか決定的な言葉が現れるのではないか。決定的と感じる感受性は何か、その時にわかる。

    東京・世田谷
    松田朋春
  • 10月12日(月)

    ビリー・アイリッシュのNO TIME TO DIEが発表されたのは今年の2月のこと。4月に予定されていた同タイトルの映画、007新作の封切りにあわせ、私はこの曲をSpotifyのプレイリストに入れた。以来毎日一度はこの曲を聴いているはずだが、007はいまだに公開されない。2020年4月の公開が延期され、11月20日の公開も延期され、ビリー・アイリッシュの声だけが私のSpotifyから流れつづける。状況は深刻である。もはや時間を逆行させるしかない。クリストファー・ノーラン監督のTENETは無事に公開されたものの、アメリカの映画館が軒並み閉まっているせいで興行収入がのびず、苦戦しているそうである。TwitterでTENETのファンアートを検索するとタイ語、ロシア語、中国語、韓国語、そして日本語ばかりヒットする。がんばっているはずなのに物事がなかなか進まないようにみえるなら、エントロピーの減少により時間の逆行が起きていると考えよう。私は先月伊豆大島に行き、黒い砂に埋もれた原野と森を通り抜けるテキサスハイキングコースを歩いた。十年以上前にテキサスハイキングコースという題名の詩を書いたのだが、実際に歩いたのは初めてだった。テキサスといえば乾いた砂漠のイメージがあるが、実際は緑も多く、稀に雪が積もることもあるという。トランプはテキサスでどのくらいの票を獲得するだろうか。Twitter社はアメリカ大統領選を前にデマの拡散を防止するため、リツイート機能の仕様変更を発表した。手動で「RT、コピペ」をやっていた時代から、私はずいぶん遠くまで来たものである。一昨日アメリカの掲示板Redditには「5歳の息子がクラフトワーク以外の曲を聴くのを許してくれないのだが、どうしたらいいだろうか」という相談が投稿された。他の音楽を聴こうとしても、これはクラフトワークではない、アレクサ、クラフトワークをかけてくれ」と命令するのだという。YoutubeとSpotifyとAmazon Musicで音楽は世代を超えた。ヒプノシスマイクは遊戯王のようにデュエルする。時間は順行し、逆行する。

    東京・つつじが丘
    河野聡子
  • 10月11日(日)

    地球より遠いところへ行きたい
    そう言うと
    ぼくはこの部屋から出て行った
    残されたのは
    誰もいない部屋だが
    いったい誰がこれを見ているのだろうか

    秋の曇りの日には
    よくそんなことがある
    TVのニュースではコロナ禍で自殺が相次いでいるし
    相模湾の南を颱風14号が通過しているらしい
    だけどこの部屋は日本海の近くだし
    ぼくはもう地球より遠い所に行ってしまったから
    関係ないね

    相模湾からは四年前にゴジラが現れて
    世界はパニックになったし
    丈高いカンナの花が赤く咲いていたこともあった
    海辺に降りれば足元には星の砂もかがやいているだろう?
    ​地球もまんざら捨てたもんじゃない気がするね
    とこれを読んでいるあなたは思うだろう

    でもそんなことは分かってるんだ
    だれも知らない街の駅に立って
    電車が通過する刹那からだが自然と前に引き寄せられる
    その謎こそが問題なんだ

    秋の曇りの日には
    ホントここに居ないほうがいいって気持ちになるよ

    福岡・薬院
    渡辺玄英
  • 10月10日(土)

    金木犀が好きだという人の
    気が知れなかった
    それを
    本当には知らなかったから
    しめっぽくすこし薫る
    その程度のものだと思っていたし
    「ノスタルジー」を口にしたくて
    「キンモクセイ」と言っている
    そんな程度に思っていたから
    絶対言葉になんかするもんかと
    かたくかたく思っていた
    その単語すら
    ノスタルジーなんて

    先週
    吉野の山を歩いている時
    突然空気がやわらかくとけ
    飴色にどこまでも透きとおっていって
    かつての笑みの浅ましさを
    しづかなしぐさでしずませると
    あおざめた誤まりをやさしく撫ぜる
    その香りがそっと知らせた
    いのちのふかくに明記する
    そうしたものが確かに在ると
    言葉や名称におさめられず
    息がただ詰まってしまう
    そうした事が
    ひとの肌の外がわに
    やさしく
    たくさん
    ゆたかに在ると

    泊まっていた宿の女将に聞くと
    今年は桜も長く咲いたらしい
    コロナの影響で4月17日以降
    お客さんは一人も来なくなって
    外からの目が絶えた吉野の山に
    桜の花びらはいつもよりほてり
    いつまでも景色をうるませたらしい

    ひとの気配がひそまると
    世界はありありと明瞭になる
    我々の手痛い消耗こそが
    世界をうつくしくもどしてしまう
    わたしやあなたの吐く息は
    いつかふたたび裸にもどる
    その時
    きっと多くのものたちが
    しづけさの内がわの中に
    一層押しやられてしまう
    そうだとしたら
    もしそうなんだとしたら

    山から戻ると海はやっぱり荒れている
    遊興のはしゃぐ姿は
    風雨に冷えきった浜のどこにも
    すっかり見えなくなっていて
    どうやらもう
    休暇は終わりらしかった

    片瀬海岸・江の島
    永方佑樹
  • 10月9日(金)

    身体を知る大切さ
    元オリンピック選手とのトークイベント
    参加無料

    前を向いて歩こうとするから
    かなりロースペックのモニター解像度で
    ピクセレーションばっかり
    道はどこまでも
            ぼやかしている

    今年という戦は
    後ろから襲うヒョウのよう
    理想を放棄した人の言葉
    You go to war with the army you have…

    コロナウィルスが感染すると
    眼差しの方向性は
    逆になる
    インボウンドの恐れは消え
    アウトバウンドの恐れが
    陽性の新しい当たり前

    時制との関連性はこんなモノなら
    はやく!
    女性主導者の時代に
    なってほしいと
    灯った提灯を想い
    お願いする
    大切さを知る身体

  • 10月8日(木)

    さ、も行かんと。
    まーさか、コロナなんかであるもんか、
    いつまでもここにおったってきりがなかろうが。
    旨いもんも綺麗なもんも、ありすぎて味わいきれんのだから
    どっかですぱっと見切らんと。
    どこへ行くか、て?
    それはわしの胆管癌が知っとうたい。
    剥離した網膜も溶けたキヌタ骨も圧迫された脊椎も血糖値にも分かっちょる。
    ココロだけがまだうろうろおろおろしとるが
    なーに心配せんでよろし。
    ほっといたら後から勝手についてきよるわ。
    大体このココロちゅうもんは
    コロナに似とるね。
    どっちも目には見えんじゃろ。それでいて
    生きたカラダのぬくもりがないとすぐに消え失せてしまう
    そう思えばカワイイもんじゃ。
    さ、こんな話しとったらきりがない。
    わしは行くぞ、今度こそほんとに行くぞ。
    なんで泣くことがあるか。
    最近どこにでも垂れ下がっとるビニールの暖簾みたいなのがあろうが
    あれをひらりと捲るだけっちゃ。
    こっちからみたらあっちがあっちじゃが
    あっちからみたらこっちがあっちであっちゃこっちゃや。
    人間はちと大きすぎるがね
    クォークだのレプトンだのはしじゅう往ったり来たりしとるわい。
    さみしゅうなったら線香でも焚火でも
    立ち昇る煙の渦の動きをなぞって全身で踊りんさい。
    だがなによりも大切なのは、手洗い、うがい、マスクの着用。
    あもうみとったらいかんよ。
    バイ、バイ。

    鹿児島・串木野
    四元康祐
  • 10月7 日(水)

    からだの左がわに湧き水の気配がする
    1メートル半ほどの龍がいるようだ

    数日前に歩いた関西の山深い村では
    橋に窟に空にまで
    水神の守護がしるされていて
    マスクをあごに引っかけた人たちは
    山伏とインバウンドが減ってねと
    ほがらかに嘆いた
    まっすぐに天地をつなぐ木々が
    途切れない水音をささえて
    透んだ気をとどまらずにめぐらせて

    そこから龍はついてきた
    わたしの詩となって 

    玄関の引き戸から小路へ
    わたしの歩幅に合わせて
    身がゆるく蛇行すると
    金木犀の匂いのなかに
    冷たい川すじがとおっていく

    西洋では人をおびやかす役まわりの龍
    数日で打ち負かしたという老勇者が
    タラップをおりた
    BGMのマントをまとって

    半月前からにぎやかになった壁のカレンダー
    男たちはヒトの指で手帖をめくる

    わたしによりそう龍の気配に
    ときどき目を泳がせながら

    東京・目黒
    覚和歌子
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