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空気の日記

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oblaat

新型コロナウイルスの感染拡大により、街の様子がすっかり変わりました。
多くの人々が、せいぜい悪性のかぜみたいなものだと思っていたのはほんのひと月前で、社会の空気の変化に驚いています。
未曾有の事態なので様々な出来事は記録されていきますが、こういう時こそ、人々の感情の変化の様子をしっかり留めておくべきではないかと思いました。
「空気の日記」は、詩人による輪番制のweb日記です。その日の出来事とその時の感情を簡潔に記していく、いわば「空気の叙事詩」。
2020年4月1日より、1年間のプロジェクトとしてスタートします。

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oblaat(オブラート)は、詩を本の外にひらいていく詩人の集まりです。
http://oblaat.jp/

「空気の日記」執筆者

  • 新井高子
  • 石松佳
  • 覚和歌子
  • 柏木麻里
  • カニエ・ナハ
  • 川口晴美
  • 河野聡子
  • さとう三千魚
  • 白井明大
  • 鈴木一平
  • ジョーダン・A. Y.・スミス
  • 田中庸介
  • 田野倉康一
  • 永方佑樹
  • 藤倉めぐみ
  • 文月悠光
  • 松田朋春
  • 三角みづ紀
  • 峯澤典子
  • 宮尾節子
  • 山田亮太
  • 四元康祐
  • 渡辺玄英

新井高子、石松佳、覚和歌子、柏木麻里、カニエ・ナハ、川口晴美、河野聡子、さとう三千魚、白井明大、鈴木一平、ジョーダン・A. Y.・スミス、田中庸介、田野倉康一、永方佑樹、藤倉めぐみ、文月悠光、松田朋春、三角みづ紀、峯澤典子、宮尾節子、山田亮太、四元康祐、渡辺玄英

  • 1月19日(火)

    明け方からの
    おもさで
    僕はたわんでいく

    すべて通行止めだから
    だれも これないね
    おはよう

    おやすみ
    ニュースの声も
    届かなくなった

    暖房をつけたままの部屋は
    空気が記憶をはらんでいて
    あたらしく産む支度をして

    罅が、生じても
    おもさで
    僕には見えなくなっていく

    腕も足も枝葉もぜんぶ
    うばわれて
    深い眠りのまま過ごしていた。

    木箱に詰まった林檎が
    すこしずつ なくなる
    皮ごと食していく

    北海道・札幌
    三角みづ紀
  • 1月18日(月)

    もう
    数えない

    朝刊の
    一面に

    国内の感染者数と死者数と増加数と

    世界の
    それらの数が

    掲載されている

    33万696人(+5760) *
    4525人(+49) *

    9450万1892人(+63万2703) *
    202万2279人(+1万2684) *

    国内の14都道府県が感染爆発の段階とされている

    もう
    数えないが

    すでに国内に
    イギリスからの変異種の感染者が

    自宅療養している
    という


    女が

    出掛けるのを
    見送った

    モコを抱いて
    白い車の後ろを消えるまで見ていた

    西の山の上の青空に白い雲がぽかりと浮かんで

    いた

    202万2279人

    世界の死者たちの
    顔を

    ひとりひとりを
    思い浮かべている

    人が
    いる

    白い雲は青空の中に形を変えていつか消えていく

    *「朝日新聞」1月18日朝刊より引用しました

    静岡・用宗
    さとう三千魚
  • 1月17日(日)

    ほんとはね、きのうはけいおうで西脇にかんするイベントに出て、今日は京都でぶんがくフリマに出店する予定だったんだけど、ふたつとも流れちゃって、なんて、とつぜんにぽっかり予定が空いちゃってみると、みょうにちからが入らなくて、起き上がることができなくって、ごぜんちゅう、ずっとふとんでよこになってた。なにするでもなく。からだがだるくって、どこか熱っぽくって、これってもしや、よもやよもや、とかおもって、体温はかってみたんだけど、ぎゃくに35度8分しかないのね。体温計の故障かもっておもって、べつの、もうひとつの体温計でも計ってみたんだけど、むしろ35度7分に下がっちゃって。ふあんになってしらべたら、低体温だと免疫力が弱くなったりびょうきになりやすくなったりうんぬんてかいてあって、いろいろ困りそうだし、かかっちゃう確率も高くなりそうだから、まずは体温を上げなくちゃっておもって、体温を上げるには辛いものをたべるのがいちばんっしょ、とかおもって、キッチンであまってるやさいてきとうにざくざくきって鍋にぶっこんで煮込みつつ、先週号のアンアンのつづき読みつつ、しあげにカレー粉とあとチリペッパーとかコリアンダーとかターメリックとか香辛料だばだばふりかけて食べたのね。じきに汗がだばだばた吹きでてきて。食後、いまいちど体温を計ってみると、35度6分に下がってて。汗で熱が出てっちゃったのかもしれない。くたびれちゃって横になって、ビートルズの、というかジョン・レノンのI’m so tiredをくちずさんでるうちに、I don’t know what to doのあたりでもう落ちちゃってたのね。2時間くらい。で、起きぬけに、また体温はかってみたんだけど、こんどは35度5分になってて。このまま体温が下がってったらしんじゃうんじゃないかってちょっとふあんになって、体温を上げるほうほうとか、よこになったままスマホでいろいろ調べてるうちに、なんだか妊活してるみたいなきもちになってきて、でもすぐに、じぶんがもともと妊娠できないからだであったことをおもいだして、ちょっとかなしいきもちになって。

    東京・冬木
    カニエ・ナハ
  • 1月16日(土)

    飲み込みなさい
    咳も、くしゃみも、
     貧乏ゆすりも、椅子を引きずる音も、
    厳重静粛の三〇分、
    日本じゅうの受験生が
    一斉にイヤホンをつっ込むとき

    よそのくにでは考えられないだろう
     なぜスピーカーで放送しないのか
      全国で設備がちがうから
       教室で音量が変わるから
        席によってリスクが出るから

        それだけか
       五〇万台のICプレーヤーは
      生産する
     回収する
    毎年、金が動くのだ

    あの懐かしき日本発、
    小型カセットプレーヤーが
    一斉を風靡したのは何十年前だろう
    いまや
    世界じゅうから忘れられたその技術、
      なれの果てなのさ
     吹きだまりなのさ
    このリスニングテストは

    凄まじき、
    地産地消

    さもしい人間よ、
    試験監督のわたしも
    おこぼれの一滴、
    まして
    コロナ下では、

    許されない
    咳が、くしゃみが、
    咳も、くしゃみも、

    コウモリは聴きとっているだろう
    若いからだのそのおののきを
    五〇万のマスクの底の、

    夕闇で

    神奈川・横浜
    新井高子
  • 1月15日(金)

    必要なものだけを手早く買う
    ひとと会わずにメールですます
    朝から顔をマスクで覆う
    そんな暮らしが長くつづけば 息ぐるしい

    だからきょうは花屋に寄った
    ことしも春の花が並びはじめていたから
    そういえば もう何か月も
    だれかのために
    花束を作ってもらっていない

    以前 チューリップがいちばん好き と言ったひとがいた
    この花は家に持ち帰ったあとも
    太陽をさがして 茎をのばしつづけ
    明るくひらき 日暮れには眠り
    そうするうちに
    花びらが零れ落ちそうなほどに おおきくひらきはじめ
    からだが色をなくし 透きとおるまで
    たっぷりとひかりを吸い
    ぞんぶんに生きたあと
    いちどに散ってゆく

    花びらが燃えあがるようにひらききるまでを
    見守るこちらも
    きのう きょう あした あさって と
    移り変わる姿をじゅうぶんに味わいながら
    終わりにむかって 心をすこしずつ整えてゆく
    散ることもその花の豊かさ と信じられるように

    年が明けて
    緊急事態宣言がふたたび発令されたあと
    子どもの通う小学校でも
    この週末に予定されていたマラソン大会の中止が決まった

    中止が知らされた日
    帰宅した子は
    たのしみにしてたのに とだけ言って
    だまってしまった

    去年の夏からこの日のために朝と夜に走る練習をしていた
    ともだちのMくんは
    帰り道 泣いていたという

    じゅうぶんに咲ききる前に
    とつぜん むしられたら
    花だって
    いたい
    つらい
    かなしい
    さびしい
    くやしい だろう
    ちぎられた茎からは
    見えない血が流れているかもしれない

    ちいさなひとたちが
    きゅうにむしられた花びらのために
    泣けないひとのかわりに
    泣いてくれたから

    わたしは思い出す
    だまったままで
    泣かないままで
    失った花のことを忘れたふりをした
    たくさんの夜を

    そして
    おおきくひらききったあとの花びらを
    見送った朝の
    すがすがしいほどの
    かなしいうつくしさを

    東京・杉並
    峯澤典子
  • 1月14日(木)

    昼間散歩に行った
    時々立ちどまっては、スマホに空気の日記を書きつけた
    そこには
    家の石鹸で洗うマスクの中にふわっとみちている
    甘い許しの匂いのことや
    視界に広がる春の光と
    マスクを外すと冬という現実を告げてくる枯れ葉の匂い
    枯れ葉と土を、その下から楽し気に動かす
    見えない生きものの誰かさんのことや
    ブロック塀の上で出会った
    誇り高い王様のような猫の
    生きている、そこにいる
    気配の強さが書きとめられていた

    でも
    さっき、迷った末、その文章を今日の日記にするのをやめた

    東京の新規感染者が1000人を超えた日も
    それがほどなく二倍以上に膨れ上がって2000人を超えた日も
    今夜のようには感じなかった

    逼迫しているという医療
    なにかよくなる要素はなにも見えない、今日の社会
    ひたひたと
    それがどんなにおそろしいことかが
    口の中に遠くから、味になってやって来る
    閉じた扉が限界まで膨らんでいるのを見る

    足元まで水が来ている
    日常のままの光景で水が進んでくる
    だれも教えてくれなかった、その日、その時をどう感じればよいのか
    どう対処したらよいのか
    その光景が、甦える

    親や親戚から伝え聞いた、
    身内の人が、どんなふうに戦争に行ったか

    思い出す資格が私にあるのかどうかもわからない
    いくつものことが
    映像になって押し寄せる

    今日はそんなおそろしさを感じた
    いつだったか、この禍いのはじめ頃に
    ニュースに釘づけで、これでは保たないと思った
    あの頃以来の
    胸がずっしり塞がる夜を迎えている
    たぶん決壊する
    夜全体からそう告げられている気がする

    そしておそらく
    個人の希望というものは
    それとは無関係なのだと知らされる
    春の兆しの光のように
    猫のように
    今日の私たちひとりひとりのように
    そうは言っても、
    それぞれの人生をその日
    あるいはその日まで生きるのだと
    知らされる

    千葉・市川
    柏木麻里
  • 1月13日(水)

    つり革にも
    握り棒にも
    つかまっていない
    OL
    サラリーマン
    学生
    おばさんもおじさんも
    電車が揺れるたびにあっちへよろよろ
    こっちへよろよろ
    時にうっかり咳でもすれば
    刺すような眼差しがいくつも
    冷たい空気の中を
    束になって貫いてゆく

    振り向くな
    振り向くな
    死んでゆくのは皆他人

    緊急事態宣言発令後
    役所はいまだフル出勤で
    通勤電車は今日も密
    保健所業務の応援に
    定年退職再任用の職員までも駆り出される
    すなわち僕も駆り出される
    きっとたくさんの感染者、
    感染不安の人たちの
    刺すような視線をあびるのだろう
    検査技師不足はすこしは改善されたか
    感染経路は追えているのか

    杉並区は成人式を挙行した
    4回に分けて感染対策をして
    それを某プロ野球元監督が上から目線で
    「なぜ成人式を強行するのかと問いたい」と反論できないところから罵る
    だからお前が監督の時にチームは弱かったんだ
    と、思わず呟く
    役人に降り注ぐ
    罵詈雑言には慣れている
    だがキチンと議論しているところは見たことがない
    罵詈雑言の人には議論する気は最初からなく
    謝罪だけを求めるからだ
    一方役人は議論が苦手
    罵詈雑言には答えようがなく
    答えれば火に油を注ぐだけ
    そんな日々が今日も続く

    このごろ増えた
    カウンターでの怒鳴り声
    「課長を出せ!」

    東京・小平
    田野倉康一
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