ダンスカンパニーOrganWorksが交代制で3人のダンサーの内側をそれぞれの興味から紐解いていきます。
踊る事で見えてくる事、感じているもの、聞こえる音。
それを紹介できればと思います。
1人は主宰、平原慎太郎。
彼の連載では日々生きてる時間の中で感じるものを内向し掘り下げた言葉を。
2人目はダンサー、渡辺はるか。
彼女の連載ではダンサーとして受けた言葉を身体で具現化する日々の作業から、更に自分の中に蓄積した言葉を。
3人目は佐藤琢哉。
彼の連載では、彼がこよなく愛するカレーライスを通じた身体の感覚、その土地土地への関わりを。
OrganWorks所属ダンサーの、三者三様の言葉を皆さんにお届けいたします。

僕はダンスを踊り、作り、365日を過ごしている。
日々、ただただ踊る。
11歳で踊りを始めて今39歳。
28年踊りを続けている。
その数字は何かを示せるのか。
何も示せないのか。
思えば、28年の間に色々なメソッドが僕の体を通過した。
クラシックバレエ、HipHop、コンテンポラリーダンスの中でもネオクラシックと言われる部類のもの、インプロビゼーションテクニック、リリーステクニック、コンタクト、スペインのシアターダンスなど。
聞いた、見ただけなら更にいくつものメソッドを知っていることになる。
瑣末なことだ。
とは思うものの、一人のダンサーに蓄積された情報というのは、そうは言っても侮れないだろう。
なぜなら、今では「知ってる」という意味では、周りのダンサーが踊るそれの事をある程度「知って」いて、「既知のもの」というふうにカテゴライズしてしまう。
つまり見る踊りに新鮮さを感じなくなってしまっている。
「知ってる」だけで、自身の体にはその動き方の情報はないとしても、知識として脳内に保管されてるものと結びついてしまう。
更には作品をつくる上でのアイディアやつくり方のメソッドを「知ってる」以上、ほとんどの作品の輪郭は既に「知って」しまっている。
勿論ソフトになるダンサーが持つ固有の要素は知らないといえば知らない。
ただマインドステートというか心理状態は、それこそ28年の歳月が教えてくれる。
乱暴な言い方だが年上のダンサーでも、同年代でも、年下でも、その人がどういう状態で踊っているのかというのは、ある程度解ってる。ある程度だが。
それに、解ってるだけなので別にそれがなんだってことはない。
こういう状態で踊ってるんだ、肌に合わないなぁとか、理解して涙が出そうになったり。
それは人の好き嫌いの範疇であって、どうでもいいだろう。

僕が言いたいのはつまりは既知だ。
毎日既知の海を泳いでる。
皮肉な話ではある。
現代のダンスと呼ばれ、新たな表現分野を開拓し、自身の意識に備わった踊りの面白さを模索するジャンルの専門家でありながらも、日常的に既知の海にプカプカ浮かんでいるのだから。
しかもたまにそれに溺れてしまう。
なので、最近は違う海を目指したいなと思って陸をテクテク歩き始めてる。
湘南の海の近くに昼頃になると現れるサーフィンを終えた人達みたく。
てくてくと「知ってる」という感覚を外して物事を見たり、踊ったりしたいなと考える。
新しいかどうかはさしてどうでもいい。現代的かどうかも。
コンテンポラリーなのかどうかということがもう薄れているので陸へ上がった。
コロナの影響もある。
現代と呼ばれてた時代の終わった感は否めない。
すでに知ってしまっているものは現代においていきたい。
この時代にあってダンスはどこに行くのだろうか。
28年の歳月を基礎としてこれからどういう応用を求められるのだろう。
言葉と体の表現が遂に交わり、DNAの螺旋のように一つの情報となって人々の身体に組み込まれる日は来るのか、どういう人類が生まれるのだろう。
陸を歩いてると気が楽だ。
この連載もいっちょ力を抜いて書こうと思う。
なんでもない。
が、蓄積された何かが僕の口を借りて話し始める。
そんなものになればと思う。
まずは次の海を目指して。
平原慎太郎

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