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連載:自由という名の映画館で

2021.03.31

Auviss を想うvol.3〜ハル・ハートリー『TRUST』~


大分県日田市で独立映画館リベルテを運営する原茂樹さん。リベルテの磁力で集まる人々のお話しや、プロジェクトのお話など。

 この連載が終わるという知らせが入る。あぁ最終回。淋しい気持ちが溢れた。ぼくは元々文章を読み書きするのが苦手で、気持ちをうまく言葉にできないので、音楽を作ったり映像を作ったりしてきた過去がある。きっと、気持ちをうまく言葉にするのって難しいと思っている人は結構いるんじゃないかと思う。でも、難しいと言ってそのままにしていても、誰にも何も伝わらない。そう、言葉にすることは一種の苦しさが伴うけれど、想いを伝える為には必要なことだ。

 ぼくは映画館を経営し、ほぼ年中、朝から晩まで現場で業務に追われているので、どうしても映画や音楽に触れることの方が多く、本を読む時間をなかなか取れていない。なので、文章の善し悪し自体分からない。まして評論なんてできない。だから書く時には、ただ“自分の気持ちの輪郭が少しでも見えること”を原稿の着地点にしている。自分の言葉を探すのに苦しさを伴うのは、しっくりくる言葉を探すから当然なこと。だからこそ、終わると心がスッキリとする。だから頑張ろう!いつもそう言い聞かせて取り掛かる。なので、書くのは苦しいけれど、書き終わると心が平穏になる。だから、こんなに淋しい気持ちになるのかもしれない。いつも苦しいくせに(笑)
 
 これまで、Auvissという高円寺にあったビデオレンタルショップの藤井さんを追いかけてきたが、これからも個人的に続けようと思う。Auvissのラインナップ作品をこれからも観ていくことで、少しでもより藤井さんの背中が見えてくるかもしれない。そして、続けてゆくには自分自身に対しても、Auviss(藤井さん)に対しても、『信頼』が必要だと感じている。最終回という区切りができたからそう思えたのかもしれないが、やっぱり信頼が大切だ。信じるチカラ。

 さて、『信頼』というキーワードが出たので、それをテーマにAuvissの膨大なラインナップから物色を始める。早速、『TRUST』と書かれたタイトルが目に飛び込んできた。目的を持って探すという行為は、相手の方から飛び込んできてくれる。やっぱりまずは意識を持つことが大切だなぁとか思いながら、そのビデオテープを持って帰る。実は、この映画は元々大好きで、ハル・ハートリー監督の長編2作目になる。邦題は『トラスト・ミー』。藤井さんがぼくを信じてよって言っている訳ではないけれど、ぼくにはそう思えて仕方なかった。

 最も好きな監督の1人ということもあり、ぼくの営む映画館でも2019年に初期3部作を劇場公開することができたので記憶には新しいが、やはり何度観てもすばらしい。あくまでぼく個人的見解だが、画面のトーンや音楽もツインピークスのファーストシーズンと重なる。調べると、どちらもほぼ同時期の作品で、当時は真新しかったであろう感覚が伺える。映画は時代も反映する。逆に、このトーンが時代を作ったのかもしれない。デヴィッド・リンチとハル・ハートリー、好きな2人がぼくの中で交わった。
 1991年にサンダンス国際映画祭で脚本賞も受賞したピュアなラブストーリーだが、不器用な主人公たち、独特なセリフまわしにお洒落でなんとも言えない間(マ)の会話、そしてちょっぴりとコメディが散りばめられ、でも最後には、どうしようもなくアツいものが込み上げてくる。依存と(様々なものからの)自立を経て、家族が出来あがるようなこのアツい感覚は、『息もできない』のサンフン(ヤン・イクチュン)がみんなに残した世界に似ている気がした。

 そう、自分はこの人生でいったい何をやれたのかというような自意識に、ぼくらは落ち入りやすい(もちろんそれでもいいと思う)けれど、いったい何を成したかは自分ではなく周りの人々が決めることでもある。自己評価と他者評価は違うのだ。そう思うと、自分だけしかいなかったこの世界にいろんな人が入ってきて、彼らの視点も共有しはじめると、世界はどんどん広がってくる。そしてそれは、愛する人や好きな人、信頼できる人に限って起こることでもあって。要するに、愛する人を見つけるということは、その人の幸せを考えるようになることであり、それはもはや自分の為でなくなっている。いや、もしその人が幸せなら、それが自分の幸せとなる。だから愛することはどちらにとっても素敵なことなのだ。

 誰にもこどもの頃があって、こどもの頃には、誰もが小さな小さな世界しか知らず、それから小学生で町を知りはじめ、中学生で市を知りはじめ、高校で県を知りはじめ、大学や社会人で世界を知ってゆくように、大人になってからも、もっと様々な世界を知りたいと改めて思えた。こうやって今はなき、Auvissを想うように。

 またこの世界のどこかで、みなさんとお会いできますよう。


日田シネマテーク・リベルテ
2009年、2回目の閉館を余儀なくされた故郷の映画館:日田シネマテーク・リベルテを引き継ぎ現在に至る。35mmフィルム映写技師でもある。スクリーン数はひとつ。座席は63席。館内でライブやトークイベントも行なっている。ロビーだったスペースを、ショップやギャラリースペース、サロンに改装。ここで出会った方々と一緒に人生を共にしているが、全ての中心は映画である。

PROFILE

  • 日田シネマテーク・リベルテ 代表
    原茂樹

    大分県日田市出身。映画館「日田シネマテーク・リベルテ」代表。35mmフィルム映写技師。人口10万人以下の町に再び映画館が戻って欲しい。様々な活動依頼があり、今ではヤブクグリ(林業支援団体)広報係、コラム連載などの執筆業、TV『キン様の鍵』(大分朝日放送)にて映画コーナーレギュラー出演、大学講師やアートディレクション、フィールドワークなど活動も様々。故郷である日田市の映画館が1日でも長く楽しく存続できることを願っている。

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