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連載:自由という名の映画館で

2020.07.21

Auvissを想う vol.2 〜『出発』〜


大分県日田市で独立映画館リベルテを運営する原茂樹さん。リベルテの磁力で集まる人々のお話しや、プロジェクトのお話など。

 僕の誕生日(7月7日)に、僕の住んでいる町は大変な状況になった。思えば、2年おきに誕生日は豪雨にかき消されている。お祝いして欲しいってことじゃなくて、僕の心に確実に刻まれるように体験させられているように感じるのだ。『こんな時でもあなたは、映画が、映画館が大切だと思えるのか?』という問いを神様から出題されているような気分。その都度、全てをまっさらにして自問自答する。が、今年も『はい。とても大切だと思います』と応えられている。だからまだ大丈夫だ。これが毎年恒例になってきて、その度強い思いになってもいる。しかし今年は、コロナに加え未曾有の豪雨。今日も大雨警報に怯えながらこの原稿を書いているのが現実である。僕の家は高台で大丈夫なのだが、被害がいくつもあり、復興ボランティアにも参加したが、悲惨すぎて、泥かきしてせっかく綺麗にした場所にもう一度でも、こんなことがあると、ほとんどの人の心が折れてしまう。どうかもう降らないで……、と祈るばかりだ。

天ヶ瀬 ボランティア作業

 さて、その中でも映画館は開館しているので、今日も映画館存続の為のいろいろを考えている。すると、ふと2013年5月に閉店した高円寺のビデオショップ・Auvissのことを想う。アナログからデジタルへ、ビデオからDVDへと移行する時に店主の藤井さんは今の僕と同じように、未来への不安と一緒に生きていたんじゃないか。実際にどうかは分からないけれど、きっと様々な想いに駆られたはずだ。藤井さんとの距離が急にちょっと縮まった気がして、前回倉庫から持ち帰った数本のビデオテープの中からイエジー・スコリモフスキ『出発』(1967年)を選び鑑賞した。タイトルでこの作品を最初に観ることに決めた。

『出発』

 実は、この作品は20年くらい前に博多にあった日活系映画館シネリーブル博多で鑑賞した作品。もう観れないと思っていた。まさかこんな風にまた出会えるなんて、ご縁というものは不思議だけれどやはりあるのだろう。しかし人間の脳は都合の良いもので、内容は完全に忘れていた。パンフレットとサントラを購入していたので、きっと当時の僕にはカッコよく映ったんだろう……などと思いながら観ていた。

 イエジー・スコリモフスキといえばリベルテでも昨年上映した『早春』のイメージが強いが、その3年前はモロにヌーベルヴァーグに影響され、撮影も内容もそうなのだが、主演にもゴダール監督作『男性・女性』のジャン=ピエール・レオーとカトリーヌ=イザベル・デュポールを起用している。ね、モロでしょ。フランスではなくベルギーだからこそできたことなのかもしれないなぁと思っていると、この青春の疾走感というか滑稽さに惹かれたのだと、だんだん思い出してゆく。観ているうちに記憶がどんどん蘇ってくる。不思議だ。明らかに初見じゃないこの感覚。レースに出ることに夢中な若い男が女と出会い、あの手この手を使いようやくレースに出るとこまでこぎつけ、その大切なはずのレースの日の朝に、レースへの情熱より、彼女と人生を歩む道を選ぶ姿に、当時の僕は”カッコいい”と思ったのだろう。ちょうど自分自身が路頭に迷っていたから、結局、愛を選ぶ主人公に人生の理想を見たのかもしれない。僕もそうでありたいと。かなり救われたのを覚えている。

 物語自体は今見ると物足りない人も多いかもしれないが、映像でいろいろ遊んでみたり、音楽が軽快なジャズだったり、ストーリーはシンプルで、車をブイブイ走らせたり……と、とりあえず映画が好きで、とにかく映画を撮りたかったんだ!という気持ちが溢れている。巨匠にはない、眩いほどの初々しさ、瑞々しさに(再び)触れて、僕も初心に帰れたような気分になった。ウェス・アンダーソンの2作目だったかな『天才マックスの世界』を彷彿とさせる、内容というより画面から溢れちゃう映画愛に、スクリーンの前の観客は大いに喜んだんではないかと想像してしまうのだ。

 あ、第17回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞してたんだ。知らなかった。別に知らなくていい。たくさん映画を観てると、賞はあまり関係ない。きっかけのひとつにはなるけれど。自分とピタッと合う映画が誰にでもあって、それを見つけられたら、きっと新しい親友が出来たかのように、それが一生の宝になるものだから。

 そう思うと、藤井さんもそんな風なことを思いながら作品選びをしてたんじゃないかと感じてくる。『多種多様な作品を観て欲しい。その中にあなたにピッタリ合う作品や主人公、作家が、きっといるはずだから』と言っているような気がしてきて、窓の外に広がる夜の三隈川を見ながらワインを飲んだ。少しだけ、さっきより美味しくなったような気がした。

三隈川

日田シネマテーク・リベルテ
2009年、2回目の閉館を余儀なくされた故郷の映画館:日田シネマテーク・リベルテを引き継ぎ現在に至る。35mmフィルム映写技師でもある。スクリーン数はひとつ。座席は63席。館内でライブやトークイベントも行なっている。ロビーだったスペースを、ショップやギャラリースペース、サロンに改装。ここで出会った方々と一緒に人生を共にしているが、全ての中心は映画である。

PROFILE

  • 日田シネマテーク・リベルテ 代表
    原茂樹

    大分県日田市出身。映画館「日田シネマテーク・リベルテ」代表。35mmフィルム映写技師。人口10万人以下の町に再び映画館が戻って欲しい。様々な活動依頼があり、今ではヤブクグリ(林業支援団体)広報係、コラム連載などの執筆業、TV『キン様の鍵』(大分朝日放送)にて映画コーナーレギュラー出演、大学講師やアートディレクション、フィールドワークなど活動も様々。故郷である日田市の映画館が1日でも長く楽しく存続できることを願っている。

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