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連載:自由という名の映画館で

2020.05.13

Auvissを想う vol.1


大分県日田市で独立映画館リベルテを運営する原茂樹さん。リベルテの磁力で集まる人々のお話しや、プロジェクトのお話など。

 僕は、大分県日田市という人口6万人ほどの小さな町で、『日田シネマテーク・リベルテ』という小さな映画館を経営している。全国の映画館が無くなっていく中、今年で11年目を迎えることができ、今ではそのことだけでも多くの方の希望になっているらしい。当の本人は、毎日映画(や音楽、本や芸術)の素晴らしさを伝えようと懸命に生きていて、来てくれた皆さんのおかげでしかないので感謝しかない。

 去年のある日、”大分で会いましょう。”という大分県の広報事業でリベルテを訪れた松田朋春さんと何度か飲みに行く機会があり、いろんな話をした。というのも、これまでにも多くの依頼があり、その中で続いていかないこともいくつかあって、その度に残念な気持ちになっていたので、お互いに永続的に(楽しく)関わっていけるものがあればいいなぁと思っていたから、そこを見つけるまでは動き出せないとどこかで思っていた。それを松田さんも気付いてか、2人になると個人的な話になった。その中で出てきたことばが”オービス”だった。

 もちろん僕は”オービス”を知らない。聞くと”Auviss”と言い、高円寺にあったビデオレンタル屋さんだったらしい。その意味はなんだろうと思っていると、松田さんは続けて、そのお店はもう無くなり、店主もこの世を去ったという。店主は、藤井崇文さんで、松田さんの友人だったらしい。しかもその藤井さんと僕の雰囲気がどこか似ていると言う。さぞかし変わり者なのかと思ったら、まさにそうらしい。その話で親近感がわいた僕は、松田さんの想いを聞いてみることにした。

 すると松田さんは、Auvissに置いてあった作品たちを教えてくれて、お店の雰囲気が感じ取れた。松田さんが語る言葉には、無くなって残念な気持ちもくっついていて、僕も切なくなった。そして、不躾だけれど在庫を預かってくれないかと言う。こんな想いまで聞いて、そんなに愛情深く重たい気持ちを、何も知らない九州の僕なんかが受け取る訳にはいかないと断った。松田さんは、自分のできることはなんでもするからと、東京へ帰っていった。何日かするとメールが届く。藤井さんのお父様にその旨を伝え許可を得たので、今度会う時に正式に進められないかという内容だった。とりあえず会うけど、まだ僕には荷が重すぎる。そう思っていた。松田さんらしく、見事に段取りが用意されていて、あとは僕の気持ち次第、ということになった。この人はやり手だなぁと思ったが、この話は仕事でもなんでもない。ただ”Auviss”が無くなってしまってこのままでは淋しいという想いだけだ。僕は気付くとわかりましたと伝えていた。

 ダンボール50箱ほどだったが、何の因果か、ちょうど新しく友人と借りた倉庫にスッポリ入る。高円寺から日田に届いたダンボールの山を見て、僕は煙草を吸った。本当に来ちゃった。廃棄は免れたが、この倉庫にあるだけじゃ意味がない。煙草は3本目になっていた。荷物運びに汗をかいたので、とりあえず温泉に向かった(この地域には良い温泉がたくさんある)。お湯に浸かっていると身も心もほぐれて、いいことを思いついたりする。”Auviss”という名前を継承しつつ、会ったこともないけれどどこか似ているという店主の藤井さんの面影を追いかけてみることなら、楽しみながら継続していけそうだ。。。

 そう思って出来た企画が『Auviss を想う』です。ダンボールを開けて1本選んで観て、書く。そのシンプルな行為を続けていくと、何か見えるかもしれない。見えないかもしれない。観た作品は映画館でレンタルできるところまでできると、より”Auviss”に近付けるかもしれない。。。

 そんな風に、想いを馳せる行為自体がとても人間らしくていいなぁと、始めてみることにしました。

この自粛の時期だからこそ、次回は、早速1作品観てみるつもりでいる。


日田シネマテーク・リベルテ
2009年、2回目の閉館を余儀なくされた故郷の映画館:日田シネマテーク・リベルテを引き継ぎ現在に至る。35mmフィルム映写技師でもある。スクリーン数はひとつ。座席は63席。館内でライブやトークイベントも行なっている。ロビーだったスペースを、ショップやギャラリースペース、サロンに改装。ここで出会った方々と一緒に人生を共にしているが、全ての中心は映画である。

PROFILE

  • 日田シネマテーク・リベルテ 代表
    原茂樹

    大分県日田市出身。映画館「日田シネマテーク・リベルテ」代表。35mmフィルム映写技師。人口10万人以下の町に再び映画館が戻って欲しい。様々な活動依頼があり、今ではヤブクグリ(林業支援団体)広報係、コラム連載などの執筆業、TV『キン様の鍵』(大分朝日放送)にて映画コーナーレギュラー出演、大学講師やアートディレクション、フィールドワークなど活動も様々。故郷である日田市の映画館が1日でも長く楽しく存続できることを願っている。

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