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連載:フィンランドの景色を通して

2021.01.09

第6回 フィンランドでやってきたこと part 2


はじめまして、フィンランドのヘルシンキに在住しています、星 利昌(ほしとしあき)です。
12年前の2008年、日本からフィンランドに渡り、今までやってきて気付いたこと、感じてきたこと、発見したこと、これからやっていきたいことなどをここに綴っていきたいと思います。このSPINNERを通して、フィンランドで生きる人間が何をどのように普段感じているか知ってもらいたいです。質問もしてください。

あけましておめでとうございます。
1月に入り、フィンランドのヘルシンキは雪が降りつもり、白銀の世界となりました。第5回で書いたようなどんよりした曇りの日から、白銀の世界に変わり、雪の美しさを堪能しています。

この “フィンランドでやってきたことpart 2” では、どういう思いで料理を作ってきたか、どういうふうに食材を選んできたか、料理を作るうえで大切にしていることを書いていきたいと思います。

まず料理するにあたって、自分が最初にすることは、食材を吟味することです。

フィンランドにどのような食材があって、その食材がどのように人々に食されているか、森にはどのような食材が自生しているのか、どのような海や湖で獲れる魚なのか、野菜はどのような風土で育っているのか、どのような環境で家畜は育てられているのか、こういったことを自分で足を運んで目で確かめる、それらを知ったうえで食材を扱うということを大事にしてきました。こうすることによってまず地の利を得ることができるので、ただ食材を選ぶよりも、食材の背景や知識をふまえた上でその料理にあった鮮度や大きさを選べるようになりました。そして段々と、知っている食材の組み合わせなら、まず頭の中で味を想像できるようになってきました。

例えば、肉は部位ごとに食感や味、栄養素まで変わります。
部位ごとにどういう料理法が適していて、どういう食感になるのかというのを研究していきました。
食用肉にはフィンランドでは一般的に牛、鶏、羊、豚、山羊、鹿、猪、鴨、鳩、兎、例外的に熊、獺(カワウソ)があります。後ろにいくにつれて一般的ではなくなっていきますが。
シカ類は、ヘラジカ、子鹿、鹿、トナカイといった種類が食べられています。
そして部位に分けると、舌、頬肉、首肉、フィレ肉、サーロイン、テンダーロイン、肋肉、お尻肉、もも肉、前足肉、後ろ足肉、すね肉、尻尾肉、内臓、心臓ともう少し細分化できますが、ざっとこの位あります。
これらを一つ一つ、焼くのがいいのか、炊くのがいいのか、蒸すのがいいのか、揚げるのがいいのか、生で食べられるのかを実際に触れて考察していきました。
食材を扱うにあたって、知っておいた方が扱いやすくなる知識は何かを考えながら、料理を作っていきました。

魚はというと、サーモン、クハ(kuha)、シーカ(siika)、ハウキ(hauki)、アハベン(ahven)、ムイック(muikku)、シラッカ(silakka)が一般的には季節を通して年中食すことができます。他にもまだ数種類の季節ものの魚や、数が少なく一般の流通経路には出回りにくいフィンランドで獲れる魚もあります。
クハという白身魚を例に挙げてみると、この魚はフィンランドの海と湖の両方で生息しています。
ですが同じ魚でも味は異なります。湖のクハは、泥の味というか淡水特有のくせがあり、一口食べただけでわかります。そして季節によっても、冬は湖であまり動かないので魚の表面がどす黒くなり、海の魚なのか湖の魚なのか一目でわかります。動いている魚の方が発色は良くなります。
こういった味にくせのある魚は、バターや香草などを使って、香りや味を更に加えてあげることによってより美味しくさせたいです。
魚がどういう環境で泳いでいるかや、どういう物を食べているかで味が変わってくるので、どこで泳いでいるかを知っていることで、身質や味を考察できます。

フィンランドには、まだまだフィンランド産の野菜など素晴らしい食材はありますが、ここでは紹介しきれないので割愛させていただきます。

こうやって食材を吟味して選ぶことは、自分の場合、料理の味を決める割合で言うと、70%以上を締めています。

あとは、食事をする人がどのような人なのか徹底的に考えながら料理を作ってきました。
フィンランドで料理屋をするにあたって、まずフィンランド人が食べ慣れている味覚を知る為に、フィンランド料理もレストランに入って勉強しました。伝統料理にはその国の食文化が表れています。どんな食材がその国で多くとれて人々に親しまれてきたか、伝統料理を知ることでフィンランドの人々が慣れ親しんできた味覚がわかり、この味覚を知ることによって、精神的にほっとする味がわかってきます。

自分は何年外国に住んだとしても日本で育った日本人なので、慣れ親しんでいるほっとする味は確かに日本料理の中にあります。日本料理は、ただただ純粋に美味しいという点と、精神的にほっとするという点を持ち合わせています。海外で生活をしたことがある人は、日本料理がどれ程日本人にとって精神的な安定をもたらしてくれていたかに気付くことがあると思います。日本にいた時には、日本の味覚に触れない日がなかったので、それに気付きませんでしたが、食事は精神的にも肉体的にも多くの幸福と安定をもたらしてくれるものだということに気付きました。

フィンランド人も日本人も外国人も、フィンランドの食材でほっとする日本料理を自分は作ろうという思いでここまで作ってきました。美味しさは食材が持っているもので、食材が美味しさを発揮してくれるので、食材に対して深い尊さをもち、その食材たちを使ってほっとする味をつくり出すことに徹する気持ちで毎日取り組んできました。

食材を吟味することと、その食材を食す人のことを考えるというこの二つの理念を軸にして、少しずつ知識を深め、技術を高めて、自分の料理をこれからも向上させていきたいと思っています。

2011年8月、まだオープンする前の改装中のお店の外側から

PROFILE

  • 陶芸家・料理家
    星利昌

    1985年生まれ、兵庫県出身。ヘルシンキ在住。
    神戸で日本料理の修行後、2008年フィンランド・ヘルシンキに移り、HotelKämp、Chez Dominique、Atelje Finneといった現地のレストランで料理の経験を積む。2011年からRavintola Hoshitoを開業し独立。2016年からもともと興味のあった陶器制作を始める。2018年自身のお店を一旦閉める。現在作品は、ヘルシンキのSamujiやLokalで取り扱っており、Michelin一つ星のRestaurantOraでも使用されている。

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