こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

私の祖母、小林はま子は1936年に愛知県名古屋市に生まれました。
幼い頃からハマちゃんという愛称で可愛がられ、母親によく連れて行かれたのは市内のファブリック専門店。たくさんの生地に囲まれ想像は膨らみ、洋裁学校へ通い始めた頃にも周囲からはハマちゃんと呼ばれ今で言うファッションリーダーの様な存在でした。
もちろんデザイナーへの夢を抱きましたが、両親の勧めにより20歳と言う若さで決断をした結婚を機にその道を諦めました。
けれどその後も祖母は、変わらず服好きハマちゃんとして周囲から認識され、どんな状況に置かれても洋服が好きという思いは変わらずそして、その気持ちに救われ生きてきました。
私が大学三年生の頃。「あゆみちゃんこれ、着てみて」と祖母はクローゼットから、思わず両手を差し出し抱きかかえたくなる様な可憐な白と緑のタグのないレースワンピースを出してきました。
「どうしたのこれ、なんて美しいの、、」私はそうっと触れながら声に出していました。
40代の頃、祖母は串カツ屋さんを営んでおり、仕事中はそこら中に油が飛び散って洋服なんて気にしていられませんでした。
けれど「お休みの日にはおじいちゃんがあっちこっち良い所に連れて行ってくれたんだよ。その時にもよく着たよおこれ。」と。洋服はちゃんと祖母のそばにいました。
「この生地が気に入ってね、仕立て屋さんに持って行ったの。形も言った通りにちゃんと作ってくれてね、いつも同じ人で。白と黒の色違いでスーツも作ったんだけどそれはもう無いなあ。おばあちゃんよく似合ったよお。」
タグのないワンピースの正体は、祖母の為に作られた一点ものだったから。
今はあまり馴染みのない仕立て屋さんも祖母は「ファッションブランド自体が少なかったからねぇ」と。量産も主流ではないその時代だからこそ、身近にあった自然な繋がりなんだ。なんて素敵な手仕事なのだろう。
そしてこのワンピースを着た祖母の姿は、どれほどに美しかったことだろう。
刺繍に優しく触れてひとつひとつ、糸の繋がりを確かめる様に、記憶を辿り、思い出を話してくれました。
私の知らない祖母の時間。その時を共に過ごしてきたこのワンピースが伝える感触は、これからの私の記憶と繋がっていく。ハマちゃんの大切なピースが一つ、こうして私に引き継がれました。
大切に着るね、おばあちゃん。

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後ろ姿のこの子と2021.03.18
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お菓子みたいなアメ豚バッグ2020.12.25
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憧れ以上のプリーツスカート2020.11.27
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兵隊さんの白シャツ2020.11.12
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スーパーに行く時のジャケット2020.10.26
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