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連載:僕らはみんな、生きている!

2021.02.18


〜未来への光を灯す、もの創りをする人たちの暮らしの光をちょこっと見せてもらいます〜
今僕たちは、経験したことのないような不安や葛藤と暮らしている。
それでもどうしようもなく生きていたいと思う。そう思える気持ちはどこから生まれてくるのだろう。その心を支える光となるものはいったい何だろう。

八甲田山頂、ウサギの足跡が至る所に続いていく

2021年1月、錦糸町駅前のコメダ珈琲店で今回のエッセイを書いている。
モーニングセットを執筆のお供に、そのふかふかなパンが冷めてゆくのを気に掛けながら「私が生きていること」について想う。
この場所は目の前に大きな横断歩道があり、手を止めて考えながら眺めるのにとてもよい。

錦糸町はまだそんなに馴染みがない街だけれど、都内に居るとどこを切り取っても東京を感じる。
それは都バスが走っているだとか、人が多いとかだけではなくて、抽象的ではあるけれど行き交う人びとの統一感の無さや時間の進む速さが故郷とは全く違うと感じているだとか、そういったもの。

私は青森県の津軽地方で生まれ育った。
ここに住む多くの人は青森にルーツがあり、同じ訛りを話す。
積雪量が多く、今頃の津軽平野は一面の銀世界で、日没は早く、暗く、街とそれらを結ぶバイパス道路や鉄道がぼんやりと光って見える。
目が開いた時から見てきたその風景は、現在の創作活動にも大きく影響している。そんな津軽は私にとって基地のような存在で、たまに帰省して子供の頃から散策をした夏の山へ澄んだ空気を吸いに行ったり、冬の晴れた日には雪に覆われた銀色の世界に目を眩ましながら歩いたりする。そうしていると、子供の頃の感覚と共に新たな発想が湧いてくる。新型コロナウイルスの影響で昨年から帰れてはいないけれど、今も心の中ではものすごく近くに感じている。

東京藝術大学大学院を修了した最初の年、ガラス工芸の研究室に在籍していた私は大学に残って個展やプラハでの展示をした。その頃からインターンさせていただいたミナ・ペルホネンに次の年入社し、それと同時に阿佐ヶ谷に転居した。働く中で触れる生地のことや製法の過程、一緒に働く人々 など環境の全てが新鮮に映った。平日は働いて土日は都内の美術館やギャラリーに行き、創作活動の出来るスペースを持っていた自宅で絵を描いた りする生活を送った。3年ほどした秋に次の年の弘前で個展の企画があり、会社から離れて自分の作品を本格的に作り始めた。働いていても、休日どこかに出掛けていても、制作するエネルギーに常に触れることが出来る所が自分に合っていて、その頃から東京を拠点に活動して行こうと決め た。
修了作品をきっかけに通っていた銀座にあるギャラリーにアートフェア東京2018での展示の機会をいただいてから、展示発表はギャラリー広田美術を中心に行っていて、美術作家としても東京が拠点となった。 

首都である東京は地理的に、日本のどこにでもアクセスが良い。朝に思い立って昼には石川や愛知の美術館に向かえる。直感的に動けることは私にとって大切な事なので、その点でも住み良い街と言える。更にこれまで、展覧会やアートフェア、大学での講師などで何度か日本を離れて活動する 機会に恵まれた。ドアを開けてから1~2時間で羽田空港や成田空港に到着出来るのは出発の前日まで制作や旅の準備をしたい私にとってとても便利だ。

日々を過ごし、人との関わりを持ちながら、今思えばなんとなく見過ごしていた東京の知らない面を、今もなお続く新型コロナウイルスの感染拡大 で意識する様になった。人口が過密であるが故に可能な限り移動には自転車を使う事で、直線距離では近くても地形の起伏が大きい事や、駅と駅の間の街並みの中で思いがけない風景に出会うなど、気付くことが多くなった。
画面を通しての打ち合わせでは、都内でいつでも会える人とでも地方と地方にいるような感覚になってしまう事。
新しい試みや人との繋がりなど、おそらく都内に住む殆どの人が多かれ少なかれ変化をし、またそれに適応しようとしている。
東京は新しさで溢れ、その土地の起源や地方から来た人々の多様性が埋もれてしまう負の側面も持っていると感じていたけれど、こういった時代だからこそ各々の独自性を束ねて助け合いながら生き抜く方法を模索したいと考える。

私は東京で、この土地以外の出身者としての個性を持って生きたい。 

PROFILE

  • 現代美術家
    佐々木怜央 (Leo Sasaki)

    ガラス素材を用いて、空想と創造をテーマに独自の物語性のある作品を制作している。

    1990年青森県生まれ
    2014年東京藝術大学大学院修了
    2012年New Glass Review33選出,NY・アメリカ
    2014年Stanislav Libenský Award入選,プラハ・チェコ共和国
    2018年
    アートフェア東京2018出展(同2019年)
    弘前市立百石町展示館にて個展「from my childhood」青森県弘前市
    2019年
    ギャラリー広田美術にて個展「空想と現実」東京都中央区
    やんばるアートフェスティバルにて「雪の精霊と花の唄」沖縄県大宜味村
    2020年
    ラトビア芸術アカデミーにて講師、個展「from Riga food market」リガ・ラトビア共和国
    ギャラリー広田美術にて個展「A slightly different future than the present」東京都中央区
    2021年
    アートフェア東京2021出展 

    展示予定
    3月4日-28日『建築と私』展、ギャラリーGigi・江ノ島
    3月20日-5月16日『旅/ここではないどこかへ』展、藝大アートプラザ・上野

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