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連載:僕らはみんな、生きている!

2020.09.15


〜未来への光を灯す、もの創りをする人たちの暮らしの光をちょこっと見せてもらいます〜
今僕たちは、経験したことのないような不安や葛藤と暮らしている。
それでもどうしようもなく生きていたいと思う。そう思える気持ちはどこから生まれてくるのだろう。その心を支える光となるものはいったい何だろう。

「ミントは厄介だよ」と通りすがりの人たちの会話が聞こえた。歩きながらその言葉の意味を考えていた。何年も前の出来事だったけれどなぜか今でもそのことを覚えている。 

自粛期間中、外にも出られないので家でお酒を飲む機会が増えた。お店で飲むようなお酒が家でも飲めたら気晴らしにもなるだろうと思い ネットで「家 おしゃれ お酒」を調べてみるとモヒートがヒットした。 透明なグラス、大きい氷、鮮やかに浮かぶ緑の葉。

見た目も申し分のないほど清涼感があり、これからやってくる暑い夏を乗り切るにはぴったりのお酒だった。用意するのはラム酒、炭酸水、ライム、そしてミント。普段ならスーパーで必要な材料だけ買うところだけど、有り余るほどの時間を過ごしているとライムは無理でもミントなら育てられそうだという気持ちになった。

閉店間際のホームセンターに駆け込み、家庭菜園コーナーへと向かう。ミントといってもいくつかの種類があり、遠い昔に飲んだモヒートの ミントの香りを思い出しながらひとつずつ香りを確かめていった。マスク越しでも十分すぎるほど感じる爽やかな香りと わずかに甘い香りがするスペアミントという品種を買うことにした。

梅雨だからという理由で水やりもあまりせず、窮屈そうなポリポットに入ったミントはしばらく窓の外に置いたままになっていた。鉢植えは明日やろうと思っている間に梅雨が明けた。

これからは自分で水やりをしなければいけないなと 窓の外に置いてあるミントに目をやると見るからに元気がない。葉がしぼみ、真っ直ぐ伸びていた枝も倒れている。なんとモヒートを作る前に枯らせてしまったのだ!

もう間に合わないだろうと思ったが、急いで鉢に植え替えて何日か水をあげ続けた。窓の外を見るたび、力のないミントを見るたび申し訳ない気持ちになった。後ろめたい気持ちもあったけれど、枯れたミントを片付けることにした。鉢植えに手を伸ばすと目に入ったのは、枯れた根元から伸びる小さな芽。

ミントの繁殖力は凄まじいもので、鉢植えではなく地植えをすると あっという間にミントだらけになるほどだそうだ。ガーデニングをする人たちの間ではこれを“ミントテロ”と呼んでいるらしい。通りすがりに聞こえたあの言葉の意味がこれで合点した。 

繁殖力もすごいが再生力も同じぐらいすごいようで、偶然にもずぼらな私とミントの厄介さは相性がよかったようだ。あと数日もすれば夏の日でぐんぐんと成長し、葉はさらに大きく広がりモヒートにいれるほどの葉もつくだろう。今では窓の外を眺めながらその日を楽しみにしている。

PROFILE

  • 写真家
    小財美香子

    1994年生まれ、東京都出身。2016年日本大学芸術学部写真学科卒業。卒業制作「南へゆけば」が金丸重嶺賞を受賞。中学時代に祖父の影響でフィルム写真を撮り始める。現在は風景写真を中心に作品を制作している。
    主な作品展は、2016年「南へゆけば」(日本大学芸術学部写真ギャラリー)、2019年「YEARS」(Alt_Medium)2020年「纏む光」(表参道ROCKET)同年、写真集「纏む光」を刊行した。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • わたし自炊はじめました
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
CREDIT