© SPINNER. All Rights Reserved.

DIALOGUE

2021.02.24

SPINNER × 向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」特別対談 第2回 辰野しずか×前田エマ

  • 対談:辰野しずか(クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー)・ 前田エマ
  • 編集:SPINNER編集部
  • 撮影:長田果純

旺盛な好奇心で風のように軽やかに生きた、向田邦子。台湾の飛行機事故での突然の死から40年となる2021年1月、スパイラルで特別イベント「いま、風が吹いている」を開催。本展にあわせ、SPINNERの編集長・前田エマをホストに、現代を軽やかに生き抜く女性クリエイターたちと、仕事、暮らし、ファッション、旅など、向田邦子が関心を寄せた様々な事象について展覧会の会場で語り合いました。当日の対談をレポートします。

前田: 2日目となる今日は、ゲストに辰野しずかさんをお招きしています。どうぞよろしくお願いいたします。まず、簡単に辰野さんご自身のご紹介をお願いいたします。

辰野:東京をベースに活動しているプロダクトデザイナー兼クリエイティブディレクターです。ファッション小物をはじめ、食器類、家具などのデザインを主に手がけています。日本のものづくり、特に工芸と一緒にお仕事をすることが多くて、日本中を飛び回りながら活動をしています。

前田:ありがとうございます。今日お会いするのが初めてで、とっても楽しみにしていました。
向田邦子展をご覧になっていかがでしたか?

辰野:第一印象としては、向田さんはすごくクールビューティーな方だなと、びっくりしました。一般的に、小説家や台本を書かれる方の展示で、その美しさが目につくということは少なかったので。ファッショナブルなお洋服がいっぱいあったり、器があったり、こういう視点で展示をするということに驚きましたね。会場構成もちょっとポップなんだけれども、大人のお洒落な感じで、塩梅が素晴らしいなと思いながら拝見しました。向田さんの生き様みたいなものが展示としてわかりやすくて、手書きの原稿もすごく見応えがありますね。

前田:原稿の他に、向田さんが描かれたドローイングもありましたよね。私は初めて見たのですが、上手で、筆のストロークが魅力的でびっくりしました。

辰野:そうですね。人物のスケッチ画が印象的でした。すごく簡単なスケッチなのに、対象の人格が滲み出るような、ちょっと話し出しそうな雰囲気までも瞬時に捉えて描かれていて。ものを書く人として、すごく人間観察されている、その感じが滲み出ていて素晴らしいなと思いました。

前田:確かに、女性の作家さんの展示で、最初にポートレートがあって、その美しさに惹かれるということはなかなかないかもしれませんね。

辰野:すごく稀な例だと思います。

前田:今回の展示では、向田さんの生原稿の他に、ご自身が愛用されていたお洋服や器、そして所有されていた絵画や書など、いろいろなものが展示されています。それらを取り上げてお話を伺いたいと思うのですが、まずはお洋服について。お洋服は、今見ても違和感のないデザインが多くて、普遍的で美しいなと思います。向田さんは仕事着を「勝負服」と呼んでいて、テレビに出られる際にはその一瞬のためにお金をかけたというエピソードがあります。
辰野さんは勝負服とか、お洋服に対してどのようなスタンスがありますか?

辰野:勝負服といいますか、仕事着といいますか、基本姿勢としてはデザインしたプロダクトを邪魔しない服という考えが強いです。グレートーンや白、ネイビーなど、色としては地味なものが多いですね。実は花柄なども好きで、持ってはいるのですが、公の場では着ないようにしています。あとは自分に似合っていて、ややテンションが上がるものを選んでいます。

前田:今日のお召し物もすごく素敵です。私は対談をするお仕事が多くて、毎回ゲストの方の雰囲気を壊さないように自分自身の服を選ぶようにしています。今回、辰野さんの画像をいろいろと検索させていただく中で、彩度の低い水色とかグレーとかのお洋服が多かったので、私も今日は水色で来ました。
自分がいる空間や会う人とのバランスとか、そういったものはファッションの中で重要だと考えているのですが、向田さん自身もどこの場所に自分が立つかということを、すごく意識されていたと思います。動きやすいチュニックもたくさん所有されていました。私の中でチュニックは公の場であまり着ないというか、リラックスした時に着るものというイメージがあったのですが、向田さんはチュニックをきちんとした場所でも着られていて、それが全くだらしなく見えないところがすごいなと感動しました。

辰野:彼女の作品はいい感じにちょっと抜け感があると個人的に思っていて。ユーモアというか、抜け感というか。その感じとチュニックがうまく私の中で合致して、なるほどと思いました。

前田:確かに!
次は私が気になっている、器についてです。向田さんご自身もお料理がお好きで、妹の和子さんと一緒に「ままや」というご飯屋さんを営まれていました。旅行の際やお店を始められる時にも、いろいろな所へ器を見に行ったそうです。どう思われましたか?

辰野:すごくセンスがいいなと思って見ていました。ご飯をのせるとすごく美味しそうに見える器を選ばれている印象があります。シンプルモダンというよりかはキッチュさがあったり、ホッと落ち着くんだけれども可愛らしさがあったり、というセレクションですよね。あの時代に、こういう眼を持って選ばれる方がいらっしゃったんだなと。現代の誰かが選んだと言ってもおかしくない、お洒落だなと思います。

前田:辰野さんもご自身でお料理をされるんですよね?お料理をされることと、器やプロダクトをつくることはどこか繋がっている部分がありますか?

辰野:器の話でいうと、物を置いた時、ご飯を置いた時に綺麗に見えるとか、美味しそうに見えるということを最優先事項で考えています。

前田:そうなんですね。勝手に「美しいお皿をつくろう」ということが大事かと思っていました。すみません(笑)

辰野:もちろんそれも頑張っているところなのですが、やはり日常使っていく中でどう見えるかということをとても気にしていますね。

前田:今日いろいろと持って来ていただいているので、プロダクトの説明というか、どういう感じでつくられたのかを伺いたいです。

辰野:プロダクトデザインをする時の基本姿勢として、ものづくりの背景に見えるポジティブなエネルギーを見つけて、それを膨らませて可視化していきたいというイメージでデザインをしています。
例えばこれは備前焼のウォーターカラフェなのですが、蓋の部分がコップとしても使えます。備前焼はお水を入れて一昼夜置いておくと、土の力で水の味がまろやかになるという、昔からの言い伝えがあって、それを皆さんに知ってもらいたいなという思いからウォーターカラフェというアイテムをつくることにしました。備前焼というと作家さんの一点ものが多くて、それもすごく素敵なのですが、今回はデザインに若干工業製品らしさを取り入れることで、より温かみが際立つのではないかと考え、備前焼の新しい良さを追求することにチャレンジしました。

hiiro photo:Fumio Ando

辰野:これは薩摩切子です。薩摩切子はガラスの生地を分厚く吹いてから、深くカットします。それが他のカットガラスと大きく違うところで、カット面に色のグラデーションが出やすいんですいよね。カットした断面がとても素敵だし、特徴だと思うので、それが際立つようなデザインにするために、あえてシンプルなカットのデザインにしました。「薩摩切子ってこういうこともできちゃうんだよ」ということをコンセプトに入れた新しいグラスをつくりました。使い勝手ももちろん持ちやすいとか、使いやすいとかも考えていますが、佇まいとかそういったものも結構意識してデザインしています。

grad. photo:Masaaki Inoue

前田:備前焼のウォーターカラフェに水を入れて、朝起きて飲む時にまろやかになっている水に出会えるって素敵ですね。自分の生活の中にこれがあるだけで、「美しいものが家にある」そういう嬉しさがあるなと思いました。

辰野:これは食器というより、アート作品に近いようなものです。水を入れて、その水の美しさを愛でるための器で、「水の器」という名前です。水を入れて、窓際に置いていただくと、外からの光や風を受けて水が動いたり、光の変化などでさまざまな水の美しさを楽しむきっかけをつくります。日常的に見ている水や光、風などが器の中に落とし込まれることでちょっと特別感を持つというか、いつも身近にあるものが美しく見えるきっかけになる道具とも言えます。そういう気持ちになるきっかけになるといいよねという話し合いの中から、この器は生まれました。

KORAI photo:Masaki Ogawa

前田:辰野さんは茶道をされているとお聞きしました。先程のお水の作品も、お茶の精神というか、そういうものが出ていると思うのですが、茶道をやっていて面白いことは何かありますか?

辰野:お茶の話をすると長くなってしまうのですが(笑)。
始めて15年ぐらいなのですが、お手前というよりは、思想を学びたくて続けています。千利休の考え方や禅の思想の中には、生き方の哲学が詰め込まれています。それがものづくりという、自分の思考回路の蓄積が出来上がる過程で、私にとって助けというか、欠かせない存在になっています。

PROFILE

  • 株式会社 Shizuka Tatsuno Studio 代表取締役 /​ ​クリエイティブディレクター /​ ​プロダクトデザイナー
    辰野しずか

    1983年生まれ。英国のキングストン大学プロダクト&家具科を卒業。デザイン事務所を経て、2011年に独立。2017年より株式会社 Shizuka Tatsuno Studioを設立。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、付随するグラフィックデザインなど様々な業務を手掛ける。
    良いモノづくりがもっと認知され、続いてほしい。という想いから、現在は地場産業の仕事に力を入れ「長所を生かしていく、伝えていく、つなげていく」をテーマに製作している。2016年 ELLE DECOR日本版「Young Japanese Design Talents」賞など受賞多数。

  • 「SPINNER」編集長 /​ ​モデル
    前田エマ

    1992年神奈川県出身。東京造形大学在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティングなど幅広い分野での活動が注目を集める。現在は雑誌、WEB等でアート・服など様々なジャンルをテーマに連載を担当している他、ラジオパーソナリティも務める。

LATEST

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • わたし自炊はじめました
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
CREDIT