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DIALOGUE

2020.08.21

森永邦彦(アンリアレイジ) × 前田エマ

  • 対談:森永邦彦(アンリアレイジ)、前田エマ
  • テキスト:市川靖子(編集部)
  • 撮影:長田果純

東京オペラシティアートギャラリーでの展覧会「ドレス・コード?ー着る人たちのゲーム」にトレンチコートをベースにした衣装を出品しているアンリアレイジの森永さん。展覧会は4月に開催予定だったものの、コロナの影響で7月開催となりました(8/30まで)。コロナの自粛期間にファッションや衣服への意識がものすごく変わり、自粛明け初めての展覧会だったので興味深かったという来館者からの声が聞こえてきています。ショーやイベントの多くが中止になっている中、森永さんが自粛の間にどんな意識を持って生活していたのか、これからアンリアレイジが挑戦していきたいこと、そして少年時代のお話など、前田編集長がお聞きしました。

前田:ショーやイベントの多くが中止になっているますが、自粛の間はどのように過ごされていましたか?

森永:自粛期間はショップを閉めていてものづくりをしている工場もストップしていました。そのため自宅からオンラインでできることをコツコツとやっていました。店舗に関してはリモートショップという形に切り替えてZoomを使ったライブコマース的なショップをスタートさせました。

前田:洋服を介して店員さんとお客さまが直接コミュニケーションを取っていたのが、オンラインでの販売という形に移行したんですね。森永さんはショップに対してどのように考えていらっしゃるのですか?

森永:僕たちが作る服は、性質上、見ただけだとわからない服が多くあります。例えば一見みたら白に見える洋服も、太陽のもとでは青になったり。ボタンのような細部にも、正面ではなくあえて縁にデザインをいれたり。意図的に普段は目に見えないものを服にしていくことや、目に留まらない部分に価値を与えたいというのがベースにあります。ということは、販売員からの伝え方がとても重要になります。
服のコンセプトや服に込めた物語も含めて一着を伝えられたら、という想いがあるので、画面上の言葉だけで伝えるということには限界があります。そこで、商品をワンクリックで購入するだけではなく、一人につき40分間、ブランドの歴史やこの服をどうやって作ったかという説明をオンラインで行ってものを伝えていくということを積極的にやっています。一つのコミュニケーションを生み出すんです。

光をあてると色が浮き出てくる。

前田:ウェブサイトやYouTubeにアップされていたリモートショップ、拝見しました。私は、アートは観るものではなく体験するものだと思っています。いかに”体験”を人に届けるのかがアートの面白さだと思うんですが、洋服も体験するものですよね。お店での店員さんとのやりとりもそうですし、服が自分の元に届くまでの過程や、受け取った後に自分がその服をどんな物語として身に纏っていくのか。もちろんファッションショーも体験を人に届けることの一つだと思います。体験を届ける手段が変化していく中で、森永さんはどのように体験というものを伝えていこうと考えていますか?

森永:他のブランドの場合、コレクションとショーがビジネスの中心、ということは少ないと思うんですが、僕たちはショーの場所があってそこから初めて自分たちのビジネスを伝えていくというやり方でした。
コレクションのその場で判断して服を売る・買うということではなく、ショーの15分間で見たもの、光や音楽も含めて体験として残したい、という気持ちがあったんです。今、様々なツールは出てきていて、パリコレでさえもオンラインでショーをするようになっています。でもやっぱり超えられない壁というのがファッションにはありますね。実際に着てみないとわからないですし、触ってみないと生地のテクスチャーもわからない。ツールを使って体験を伝えようとはしているんですが、僕はやっぱりオフラインをどう保つか、そこにファッションがどういった機能を果たせるのか、ということをずっと考えています。
移動することが難しく、集まることができない状況で、何か別のツールに変えていくのではなく、もう一度みんなが集まれる場所をファッションで作り上げたり、身を守るファッションの機能に立ち戻ることを考えたりしています。
飛沫よけのパーテーションのように、服が完璧に身を守ってくれたらパーテーションだって必要なくなるかもしれないですよね。マスクと同じ機能をファッションが果たせる役割を見出だしたので、力を入れ始めています。

前田:アンリアレイジの服は科学の実験室に迷い込んでしまったかのような非日常的なワクワク感、いつもと違うドキドキ感を届けてくれます。でも自粛の間というのは、普段とは異なる日常を目の前に常に突きつけられる日々でした。非日常が日常になってしまった。森永さんは自粛の間、何か新しい発見はありましたか?ショーは半年先の未来を常に見ていますよね。今は未来が全く予見できない最中ですが、私は小さい頃の記憶を思い起こすことが多かったです。森永さんはこの数ヶ月どのように過ごされていたんでしょうか。

森永:半年後に予約して服を買う、という状況でもなく、来月の状況すらわからない恐怖感がありますよね。ファッションってずっと先を見据えて作っていたんですが、それこそが非日常性をもたらしている。「今ここには無いけれども半年後にこういうものをたくさんの人が着てくれる」「そうしたら日常が変わるかもしれない」というファッションがもたらす非日常的なことをずっと思い続けていたんです。でも日常が急速に変わってしまった。変化が起きてからはやはりオフラインの大切さや、ショーがいかに自分たちにとって大切だったか、を考えなおしました。自分たちが当たり前だと思っていたものがより大きくなっていたんですね。元々はある地点から外れよう、外れようとして非日常を作っていたんですが、「今までの日常を形を変えて取り戻すことをやってみたい」と思うようになりました。この非日常の中で、さらに非日常を作っていくとそのうち日常になっていきますよね。自分たちの表現だけで世界を作っていくというよりは、今まで僕たちの服を着てくれたり応援してくれた人たちに向けて、ファッションへの興味や力や関心を、服を作ることで引き戻したいという気持ちがあります。

前田:ファッションは季節(シーズン)と深い関わりがありますよね。季節への感覚が数ヶ月間家に閉じこもる生活の中で変わってしまったな、と思うことはありませんでしたか?

森永:今シーズンに世に出そうと思っていた服は圧倒的に余ってしまっているという現実的な問題があります。夏が来てもう今は立秋が過ぎている。ファッションの、ものを作るスピードが季節の速度とズレていたんですよね。今この状況になってそのズレに多くの人が気付いている。ファッションのシーズンサイクルが逆転していましたが、季節の移り変わりをもう一度意識できるような服を作れたらな、という意識になりましたね。

前田:それは楽しみです。でもコロナでの変化よりも、お聞きしたいことがあるんです。いつか森永さんとお話しできる機会があったら、どんな少年時代を送られていたのか知りたかったんです。森永さんは、幼い頃から大切にしている感覚や体験、ありますか?

森永:静かな少年でした。一人っ子でもあったので友達とワイワイ遊ぶというタイプでもなく。

前田:電車少年、虫少年、サッカー少年、読書少年、、、なに少年だったんでしょうか。

森永:虫少年でした。昆虫採集をよくしていましたね。毎年夏に両親と軽井沢に行っていたのですが、いろんな虫採ってました。虫採るのって作戦が必要ですよね。虫と人間、見えている世界が違うんだ、っていうことにまず気づいたんです。虫によって多眼であったり、見えている色が違ったり、虫によって知覚が違うんですよ。捕まえる時に人間の視点じゃなく虫の視点でその虫に迫っていかないと捕まえられないんですね。今振り返ると、僕たちが作っている光で変わる服は、人の眼には白く見えているだけで波長が異なるモンシロチョウには違う色に見えている、それを紫外線の力を使って人の眼に見えるようにしているだけなんですよね。自分が見ている色や形はあくまで自分の主観であって、全く違う視点からはどう見えるのか、その考え方は少年の頃の視点に変えてみることも含めて今のベースになっているかもしれません。
今は虫は苦手なんですけどね。

前田:アーティストの作品の作り方にも2パターンあると思うんです。自分以外の目線で世界を捉えることを提示していくやり方と、政治やジェンダーといった社会の情勢によって変わっていく世界を提示していくやり方。どちらも視点を提示するという点では同じですけれど。

森永:見ているものは一つでも、たくさんの世界が存在するという環世界(かんせかい・ウンベルト)という考え方があるんです。ファッションってたくさんの目に頼っているまさに環世界だと思うんですが、今オペラシティに出品しているトレンチコートも、画面上では解像度がたくさんあるのに距離や人によって概念的にどんどん変化しているんですよね。

アンリアレイジ / 森永邦彦 2011秋冬
© ANREALAGE CO., LTD
(ドレス・コード展 出品作品)

視覚障害者の方たちと洋服を作るプロジェクトをこの3年ほど行っています。ダイアログ・イン・ザ・ダーク檜山晃さんとライゾマティクスリサーチ、アンリアレイジが感覚に関する対話を通して「echo」をテーマに空間と呼応する服を製作するというものです。
見えている、見えてないという大きい世界があって、彼らと僕とでは同じ空間にいて同じものを触っていてもやっぱり感じているものは異なっているんですね。音の反響と触覚とで感じる世界と、視覚の情報で感じる世界と。自分とは異なる知覚で世界を感じている人達と、洋服でどう表現しようかと考えた時に、これまでと異なる表現の幅が出てきました。

前田:視覚障害者の方とはどういう服を作られるんですか?

森永:視覚障害者の方たちは前後左右の概念ではなく、360度で世界を見ているそうです。例えば電車に乗っていて、僕たちは景色の差異で進行方向を認識できますが、彼らは車内に流れるアナウンスの声で進行方向を聴き分けるんです。電車に乗っていて声の違いを気にしたことってなかったんですが、自分が今まで感じていなかったことにたくさん気づきをもらいました。
それから声の反響や白杖で叩いた振動で空間の形を認識しているという話を聞いて、ファッションには空間の形を認識するための機能ってないですよね。なので洋服に空間を測るセンサーを付けて、洋服自体が信号を発し、それが空間との距離を認識して、身体に振動でフィードバックするという服をこの3年くらい作っているんです。服を通じて、体で空間を感じ取れるんじゃないかと。暗闇での空間認識を思考することで生まれた新しい身体器官としての服です。

前田:身体中がセンサー!!猫のひげみたいですね。

森永:自分の体内をセンサリングして外に知らせる機能のある服というのはすでに存在するんですが、自分の外の世界をセンサリングして体の中に伝える、っていう服はないので試してみたんです。

前田:小学校の時に色弱の友人がいました。きっと見えている世界は私とは違ったんだろうな。同じ時間軸を生きているのに全く異なっている世界に対して少し憧れがあったのを覚えています。

森永:主観的な表現と、視点を変えた表現。ずっと揺れ動きがありますね。「アンリアレイジらしいね」と言われる服を作りたい自分と、全く違う生き方をしてきた全然異なる視点でみた美しさと、両方常にありますね。

前田:そのバランス、忘れてしまうことないですか?
私は一年に一回地方に住み込みするようにしているんです。東京と時間の流れが異なるしそれが私にとってとてもよいバランスが取れる方法だと思っているんです。でも今地方に行くことができない状況で、どうやって自分の時間軸を作っていったらいいか、考えてしまいますね。自分の周辺にはない世界を感じることって大切ですよね。

森永:ファッションの世界でその人たちだけと話をする時間と、全然違う分野で同じものづくりをしている人と話す時間がありますが、違う考えや刺激を受けることができますよね。音楽、文学、お笑い、建築、社会学者や生物学者、異なる分野の方と会って話をしているとそれをファッションに置き換えたらどうなるんだろうか、ということを常に意識しています。

前田:森永さんが私の大学で授業にいらした時の日記を読み返してみたんです。アンリアレイジの「神は細部に宿る」というお話をされていたのが心に残っていたんですが、熱量を持って続けて一生懸命やっていくことで見えてくるものがある、というお話をしてくださったのを覚えています。今おそらく森永さんが何か始めようとすると、技術的にも人脈も、以前よりやりやすい環境になっていませんか?

森永:今までだったら洋服の仮縫いを作ってモデルにフィッティングしてシルエットを見て、とフィジカルなものづくりでしたが、遠隔でできることが増えて、データ上でシミュレーションして服づくりをすることも可能になりました。実際やってみると、想定とほぼ同じものができることはできるんですよね。でも洋服を触らないまま服ができていくということが、しっくりこないところがすごくありますので、バランスかと思います。

前田:服とのやりとり、ですね。服と自分の手を使ってその場で見る、という体感がなくなってしまいましたよね。

森永:やりとりがメールとSlackとZoomと、、、ほとんどがデータになってしまいましたね。でも僕は物質化することが好きなので誰かから送られてきたラインを一度プリントアウトして切ってノートに貼って、ということを特にこの自粛期間はずっと続けています。ニュースもあえて印刷して切って貼る、ということをしていましたね。

前田:私はコロナを機に、手紙を今まで以上に書くようになったんですが、コミュニケーションをとるためのツールとして、手紙の強さを再確認しました。やはり手を動かして作り出すものは面白いですね。SPINNERで交換日記を連載しているのですが、最近はみんな忙しくて回数も減りましたがそれがまたリアリティだな、と思っています。
森永さんは、これから大きなプロジェクトはありますか?

森永:ミラノコレクションでのフェンディとの協業した商品が、今年発売になります。また9月にパリコレもあります。移動できないですし世界中から人を呼べる環境にあるとは思えないので、パリもミラノもフィジカルで実施するブランドとリモートで参加するブランドと二つの世界でコレクションが展開されます。

前田:それも楽しみですね。
今日はありがとうございました。
たくさんお話をお聞きできてよかったです。

PROFILE

  • アンリアレイジ
    森永邦彦
  • モデル
    前田エマ
  • 空気の日記
  • エマらじお
  • わたし自炊はじめました
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
CREDIT