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DIALOGUE


『しばてん』『ちからたろう』など、子どもから大人まで幅広い世代に愛される絵本をうみだしてきた絵本作家の田島征三さんと前田エマ編集長との対談は緊急事態宣言の最中にオンラインで行われました。家で過ごす時間が増えたことで本棚から懐かしい書籍や絵本が出てきた、という人も多いはず。これからどうなるか誰も予測がつかない不安定な状況でも、絵本を開くと幼い頃の気持ちに戻り穏やかな時間を過ごすことができる...そんな懐かしい気持ちも思い起こさせてくれた対談でした。
田島さんは今年、「小さなノーベル賞」と言われている『国際アンデルセン賞』の最終候補となりました。国語の教科書に掲載されている作品で、田島さんの作品を知った方もいるかもしれません。そんな田島さんは2009年、新潟県十日町市の廃校をまるごと空間絵本にした「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」を開館。編集長はこの美術館をお手伝いしていたことがあり、田島さんとひとつ屋根の下、一緒に生活していたこともこの対談で触れています。そして最後にはSPINNER DIALOGUEでは初となる動物(ヤギと猫!)も登場します。

前田:私との出会いは覚えてますか?

田島:エマちゃんとは2018年の絵本と木の実の美術館で、だよね。

前田:違いますよ~!(笑)
私と征三さんはもっとずーっと前から面識があったんですよ。
小さいときから、いつも母の後ろについて征三さんに挨拶してたんですよ。実は2005年くらいから会ってはいるの。ちゃんとお話ししたのは2018年の大地の芸術祭の時に、絵本の木の実のスタッフとして私が働いていた時ですね。その時は全国からここで働くために女の子たちが集まってきていて、空き家で共同生活をしていて。そこに征三さんも暮らしていたんですよね。同じ家でみんなで1か月くらい生活していましたね。朝は絵を描いて、夜は温泉入ったりお酒を飲んだりしている征三さんを毎日眺めていました。

撮影・前田エマ 2018年

田島:4人とも同じ歳だったよね。

前田:ひとりだけひとつ年上の子がいたけれど、みんな天秤座で、占いが一緒(笑)。今でも仲良しです。

田島:同じ屋根の下に4人も女の子がいるから一緒にお酒飲んだりしたかったんだけど、外から帰ってくるとみんなトレンディドラマ見てたりしていて、この世界には僕は入れないなと諦めたんだ。でも最後の3日くらいに「一緒に飲もうか」と声かけたら、みんな「待ってました!」って。もっと早く声かければよかったよね(笑)。

前田:そのあとも、私が征三さんのインスタを担当しているので何回かご飯をご馳走になったりしてますね。

田島:スパイラルでエマちゃんの作品が出品されているって聞いた時も観に行ったよ。なかなか面白い絵だったよ。

スパイラルにて 撮影:前田エマ

前田:ありがとうございます。嬉しいです。私は征三さんの作品では『ふきまんぶく』(偕成社・第5回講談社出版文化賞受賞)と『やぎのしずか』シリーズがすごく好き。私は神奈川生まれで、ずっと実家暮らし。私には、地方の山奥で服を作ったり美容室やったり、不思議な保育園で働いたりしている友達がいるので、私は今後どういうところで生活していくんだろう、どういうところに家を持つんだろう、どういう生き方をしたいんだろう、ということをよく考えるのですが、そういう時に『やぎのしずか』のシリーズを思い出すんです。
私は毎年夏休みに地方のカフェやレストランで働くのが好きなんです。東京で生きている時間ではない時間を過ごすことで見えてくることがある。絵本と木の実の美術館で過ごした時間は私にとってとても大きな発見のある時間でした。毎朝ヤギのミルクを温めて飲むこととか、地元のひとたちが野菜を届けてくれたりだとか。毎日楽しかったですね。Hachi caf é(絵本と木の実の美術館のカフェ)の人たちとの交流はとても濃かったです。

撮影:前田エマ 2018年

田島:Hachi cafeでの仕事は楽ではなかったでしょ。

前田:もともとずっと飲食で働いていたんです。絵本と木の実では、カレー作って、掃除して、珈琲を淹れて、毎日その繰り返し。私は、食事を通して見える人の風景に興味があるんです。

田島:人が食べている姿を見るのが好きなんだね。

前田:どんなものを食べているのか、どういう食べ方をするのか、その人のマナーを見ることが面白いんです。食事を通じてその人の性格とかをちらっと覗きみて知れる。食事って、その人のことが顕著に現れるような気がします。

田島:エマちゃんの前で気を抜いて食事できないね(笑)。

撮影:前田エマ 2018年

前田:私には、自然の流れに沿って生活することへの憧れがあるんです。自分の畑を耕しながら制作活動をしている友人たちは、その日の天候で動いています。スケジュール管理ではなく、自然や季節の中で今日は何をするかを決めるという感覚、この感覚に私はすごく憧れがあるんです。征三さんの制作に対する姿勢も、似ているところがありますよね。

田島:天候は自分の体にも作用するよね。低気圧が来ている時は元気が出ないよね。
今のアトリエはそんなに広くないんだけど、ベランダはすごく広いの。だからベランダで絵を描くこともあるんだよ。良い天気の時は直射日光で絵が乾きやすいし、外だから小鳥が糞をする時もあるんだよね。新刊の『ぺぱぷんたす』(小学館・祖父江慎さんデザイン)に入れる短編の絵本用に、小鳥がたくさんいる場面をベランダで描いていたら小鳥が糞をしてきたの。面白いよね。編集者に「この糞を製版に残してね」ってお願いしたんだ。外だと風ですっ飛んじゃうこともあるけど、いろんなことが起こるよね。外で絵を描くということはとても楽しい。
畑作業をしている時はここにはナスを植えよう、こっちにはタマネギ植えよう、とか考えてるけど、絵を描いている時も同じ考え方になっちゃって、こっちの画面は赤、ここの面は紫、みたいに畑でやってるのとごっちゃになってる感覚になるんだよね。畑と絵、向かう時の気持ちが同じだったんだな。これは面白いなって思ったよ。優れた画家はもっと真剣に配色構成とかマチエールとか考えているんだろうね。そして不条理の世界をどうして表現するか、みたいなことも考えてるのかもしれないけど。僕は気楽でのんきな絵描きでいてもいいのかな、っていう気持ちで絵を描いていた時代があるんだよね。

前田:コロナ禍で、家で過ごす時間が増えましたが時々外にでると、家に入ってくる隙間風と、外で全身で浴びる風って、こんなにも違うんだ、ってすごく驚いたんです。私はそういう驚きがないと文章書いたり作品制作したりできないんだと感じました。毎年、地方へ働きにでかけるのも、今いる世界と違うものに触れないと、私はなんにもなくなっちゃうから。生活と創作が本当の意味で一緒になっていく感覚を持って生きている人に憧れます。

田島:エマちゃんは研ぎ澄まされた都会的感覚を持っているけど、野生性に憧れながら生活をしているよね。全体的に都会的なバランスのある感覚を持っているエマちゃんと、田舎で育って泥まみれで遊んで大人になった今も同じようなことをやっている僕。今住んでいるところも日の出町もそうだけど、吹きっさらしやスズメが飛び込んで来るような家は、外とあまり変わらないんだよね。エマちゃんが風に対して感じたような感動は、僕は少なく感じるのかもしれない。最近の僕は道を歩きながら明日葉とか三つ葉とかいろんなもの採って生活しているから、外と内と細かい感動の差異がそれほどないかもしれないね。
エマちゃんが持っている感動の新鮮さや、するどい感覚。そして僕のぼけっとした感覚。この二つの差異は面白いね。
でもね、時々僕も思い出したように興奮する時もあるんだよ。「世の中いったい何なんだ!」っていうことがあるじゃない。そういうことに急に腹が立つ時があるの。みんなが避けていることを権力者が強制的に押し付けてくることとか、そういうことに対して急に心の中に怒りがこみ上げてくるときがある。それが絵の中で突然筆が暴れ出すんだよ。結果的に絵は面白くなるんだけど。策略なしに、怒りのエモーションが面白い絵になっちゃってる。

前田:征三さんにとっての軸ってなんですか?

田島:権力に傾かないことかな。元々僕は子どもの時、いじめられっ子だった。なのに老夫婦がやっている店にワルたちと一緒になって石を投げたり、お金のないお遍路さんを村の大人たちと村はずれまで追い立てて行ったりした。そんな体験があるからか、少数者でいたい。弱者でいたい。絵を書くときも文章描くときも絵本を作る時も、王道を歩く立場ではなく、そこからはみ出して落ちこぼれ的なところに自分を置いておきたい。決して立派だったり優秀だったりではなく道の端っこを危なかしく歩く人でありたいと思ってる。
これは負け惜しみっていうのかな?負け惜しみが軸かな?(笑)

前田:絵本と木の実の美術館 10年間の記録をまとめた書籍、届きましたよ。
緊急事態宣言が解除されたらみんなでまた美術館に行きたいです!

田島:絵本と木の実の美術館ではヤギが生まれたけど、名前がまだ付けられないんだよね。
いつもは小学生がメーメー式(命名式)で名前を付けてくれるんだけど、今のところまだ名前付いてないんだよね。6月頭くらいには名前候補が出てくるのかな。

子ヤギ
メ~

最後に征三さんの猫と一緒にヤギもオンライン取材に登場

前田:SPINNER史上初めて動物が登場しましたね。
みんなかわいいな。またみんなで元気に会いましょうね!

田島:遊びに来てね!

子ヤギ
メ~!

絵本と木の実の美術館で飼育されているヤギたち

対談日:2020年5月22日(オンラインで収録しました)

PROFILE

  • 作家
    田島征三

    1940年 大阪府堺市で兄征彦と一卵性双生児として生まれる。
    6歳から19歳までを自然豊かな高知県(6~11歳 芳原村(現春野町)、11~19歳 高知市朝倉)で暮らす。この時期に、小川で魚を手づかみで持ったりした時の、生き物が掌の中で暴れる感触は今も創作の根になっているという。
    多摩美術大学図案科卒業を機に手刷り絵本『しばてん』を制作する。1969年に東京都西多摩郡日の出村(現日の出町)に移り住み、ヤギやチャボを飼い畑を耕す生活をしながら、絵本などの創作を続ける。
    新しい画風を生み出そうとし続けていたところ、ナスカの地上絵の写真を見て新境地が開ける。従来の絵本とは大幅に画風が異なる絵本『ほら いしころがおっこちたよ ね、わすれようよ』を出版する。(1980年)
    1989年に日の出町に残る最後の美しい谷間が第2の巨大ゴミ処分場計画候補地になっていることを知り、夫婦で反対運動をおこすことを決意する。森の中で反対運動をしている間に森の植物や小動物との連帯を強く感じ、インスピレーションを得る。
    胃がんを患い、胃の2/3を摘出する手術を行う。転地療法のため、伊豆高原(静岡県伊東市)に移住する。(1997年)手術後、体力をつけようと森の中を歩いていた時、シロダモ大木に呼び止められた気がしてふと立ち止まる。翌年の秋、その実を集めて制作した絵本『ガオ』を出版する。
    その後、絵本を作りながら、木の実や流木などによる作品を発表し続けている。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • わたし自炊はじめました
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
CREDIT