
DIALOGUE
伝統芸能と音楽。分野は違っても表現するという点で共通点が多い二人の対談は、共感しあうことも多く、お話の中で何度か出てきたキーワードは「ネガティブ」。決して暗いイメージではないこの言葉を、二人は人生の軸にしているのでしょうか。
塩塚:日本舞踊は自分で振り付けをされるんですよね。
振り付けは曲に合わせるんですか?
梅川:いろいろあります。
ポップスで踊る時もあるんですよ。
塩塚:ええええ!!
梅川:福岡と大分での復興チャリティ公演で一青窈さんの「ハナミズキ」をクラッシック調にアレンジして踊りました。
振りに関しては、音楽を何度も聞いてくるとふっと降りてくるんです。「ハナミズキ」の振りは2時間くらいで出来上がりましたね。今でも地元のみなさんが喜んでくれているのは、音楽がベースにあっていろんな思いが繋がって一つの作品になったからかな。とても幸せに思いますよね。
チャリティの時のようにテーマがあって作ることもあるし、大河ドラマの武士の一生をテーマにした曲に合わせて踊る、というのもありました。その武士がどのような生き方をしたのかなど調べていたら自分と似ているところがすごくあったんです。共感もしながら自分に落として研究していった。古典の舞踊の振りにはないけど、音楽と歴史と精神と身体が繋がる時にどう表現するのかを考えましたね。日本舞踊も古典だけではなくいろいろなジャンルとコラボレーションできるんですよね。
塩塚:私、曲を作る時は部屋でこもってギター弾いてるんです。景色みたいなのがあって、そこに向かって音や言葉を当てたりしています。2時間とかでできる時もあって、探した先で降りてきたものをふとキャッチする感覚、わかります。
梅川:僕も同じ。共感できる!言葉にとらわれるとその枠でしかなくなってしまいますよね。だから僕は踊りが好きなのかもしれないです。言葉って、心に残ったり言葉によって強くなることもあってすごい力を持っていると思うんだけど、踊りに関しては人それぞれ自由な発想でできるんです。
梅川:曲を作る時って、先に景色やタイトルがはっきり浮かんでから作るんですか?それともなんとなく見えている景色で作るんですか?
塩塚:どちらもあります。映像作品などのために曲を作る場合ははっきりしてますよね。以前見たこの景色や気持ちを残しておきたい時もあって、その時もはっきりしています。一方で「ああ、今日はいい天気だな、曲を作りたいな」っていう時はふわっとしたものを求めていく作業をしていきます。
梅川:ジャンルが違うけど作業は一緒ですね。面白い。
景色って具体的にどんな景色ですか?
塩塚:空が綺麗、とか、元彼の歯ブラシ、とか。笑
曲にしていくには、景色に物語を置いていったり、気持ちを縁取っていく、ということになってくると思うんです。
梅川:踊りも物語があります。一緒ですね。
でも、古典には意味が全然ないものもあるんですよ。ミュージカルやバレエに比べると日本舞踊は暗いというネガティブなイメージがあったけど、本当はすごくかっこよくて、すごく華やか。それが僕は今理解できているけど、そのギャップがわかれば日本舞踊はとても面白く観れると思いますよ。

塩塚:梅川さんのyoutubeみましたよ。
梅川:何かのきっかけになったらいいなと思って短い動画を作ったんです。
塩塚:日本舞踊って、何から、どこで見ればいいんですか?
梅川:踊りのルーツはお能になるんですけど、まずは玉三郎さんの演目を見ていただければ良いかなと思います。最初は難しいかもしれないけどね。
でも日本舞踊の妖艶さって、モエカさんのふわっとした世界と似ているかもしれないなって思いました。
玉三郎さんの公演も見て欲しいけど、僕の公演も観てくださいね。笑
塩塚:実は私、GAGAというトレーニングをしているんです。バットシェバ(コンテンポラリーダンスカンパニー)が生み出したメソッドで、水の中にいるような動きだったり、体幹を鍛えるプログラムなんですが、自分の体のどこがどう動くのかということを集中的に鍛えることができます。1時間で自分の体がどこかに行ったような感じになるんです。
梅川:自分なんだけど、自分じゃない、という感覚、わかります。
踊っている時、魂がぬけるような感覚。「あ、こういうのがあったんだ」って思う時がありますよ。
塩塚:私、ライブの時、違う人になっているかもしれない。舞台の上で、景色の中に立っている自分を演出しようとすることは、魂が抜けて帰ってくるのと似てるのかな。
もう少し日本舞踊について教えていただけますか?
梅川:日本舞踊って、歌舞伎の一つなんです。
歌舞伎の中には、
ー時代物 古典的なもの=海老蔵さんが演じてらっしゃる歌舞伎
ー時代劇 フランクな世話物
ー歌舞伎舞踊
の3つがあるんです。歌舞伎の中に日本舞踊が含まれているんですね。
玉三郎先生に、歌舞伎をするなら日本舞踊をちゃんとしたほうがいいねとおっしゃっていただきました。
僕がポジティブすぎたから先生に「ネガティブになりなさい」と言われたんでしょうね。
古典の中には切腹とか身代わりとか、現代では考えられないようなネガティブな行為があるんです。それが名作として残っていたりする。ポジティブすぎる僕が、それを理解できると思います?
それだと一生そこにアクセスできないですよね。
どうやってネガティブになっていったかというと、現実でネガティブなことが起こったんです。
伝統文化をやっていくのに、修行する上で、ネガティブな環境があったんですね。
塩塚:日本は、ネガティブなことが美しいとされていたんでしょうか。私はすごくネガティブなんですよ。日本舞踊に向いてますかね。笑
梅川:超ネガティブってことですね。笑
ネガティブが自分の軸なんですか?
塩塚:イメージでしか言えないですが、真っ白でふわふわしたところで生きている感じがあるんです。
毎日生きていくだけで大変ですよね。曲を作って有名になっていくのも、死ぬまでの時間をどう使うかの選択肢の中の一つでしかなく、だから人生は全部暇つぶしだと思っています。その虚しさが軸なのかもしれない。
それから、見た目ではなく感覚として美しいかどうか、というのも、物事の考え方の軸になっているかもしれません。
梅川:僕の軸は古典や時代や師匠と「常につながっていること」かな。言葉にすると難しいですね。
つながりの中からのアウトプットというのが常に自分の軸になってお仕事をさせていただいているなと思っています。そういったつながりの中で、師匠やお客さまに対して自分がどういう存在意義があるのか、年々そのことを考える時間は増えているかもしれません。
塩塚:きっと梅川さんは運命に導かれる人なんですよ!
梅川:運命というよりも直感を大事にしてますね。最初に思ったことを行動する。
自分のオリジナルや自分の世界を出していくってどういうことなんだろう。直感を追いかけていけばオリジナルの自分に辿りつけるのではと思っているんです。でも今の社会って、例えばサラリーマンの方だと組織の中で直感を生かせることが少ないと思うんですが、僕の立ち位置だと直感で動けるんですよね。
ある方から「僕たちの世界に社会人はいませんよ。」と言われたことがあるんですね。その時は「え!舞踊家は社会人じゃないんだ?」って思いましたが、直感を信じて選ぶことができるのは確かに社会人じゃないのかもしれないですね。
最近ようやく少し理解できたように思います。だから直感をすごく大事にしています。
塩塚:私は春から社会人になるんです。
今はまだ学生だから好きなことを好きな時にできる。でもそうではない世界というのがこんなに近くにあると思うと世界が全然異なって見えてくるのかな。
その時になるようにしかならない。
自分が選ぶというより、運命や直感に引っ張られているのかもしれないですね。

(対談:2020年3月実施)
PROFILE
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- 音楽家
- 塩塚モエカ
1996年、東京生まれ。3ピースバンド羊文学のギターボーカル。全楽曲の作詞・作曲を務める。
2017年『トンネルを抜けたら』でデビュー。現在までにアルバム1枚、EP4枚、シングル&配信シングル各1枚づつリリース。今年2月5日には新作EP『ざわめき』を発表。恵比寿リキッドルームでファイナルを迎えたワンマンツアーは全てソールドアウトに。
ソロ活動では、羊文学とは異なる楽曲を、時にボーカルエフェクトも使いギター弾き語りで演奏。浮遊感のあるパフォーマンスが特徴的。
そのアイコニックでフォトジェニックなキャラクターから、ファッションブランドや広告でのモデルを務めたりと活動の枠を拡げている。
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